憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
翌日、由美が帰宅すると五月が淡々とした口調で出迎えた。
いつもと違って機嫌が悪そうだ。
「お帰りなさいませ。博子奥様がお待ちです」
「え?」
なんとなく五月はもの言いたそうな顔だ。
しばらく顔を見せていなかった博子が、わざわざ訪ねてきたのだ。
由美が帰宅するまでに、ふたりの間になにかあったのかもしれない。
由美は慎重にノックしてから応接室のドアを開けた。
「すみません。お待ちになりましたか?」
「いいのよ、久しぶりにお義母様のお顔を見にきただけだから」
博子は相変わらず年齢を感じさせない優美な姿だ。
初めて会った頃より少しふっくらとしてきてはいるが、涼しそうな青い小花柄のワンピースを上品に着こなしている。
「なにか、ご用でしょうか?」
祖母の顔を見るだけなら、陽が暮れた時間まで由美を待っているわけがない。
向い側のソファーに腰掛けてから由美が尋ねると、博子は眉をひそめた。
「あなた、裕実の頼みを断ったそうね」
裕実からの、今週末の当直交代を断った件だ。
昨日の話なのに、博子はすぐに文句を言いに来たようだ。
「すみません。忙しくて無理なんです」
由美は形だけ頭を下げた。
「なんとかならない? 今回だけは、どうしても代わってちょうだい」
「今回だけ?」
「土曜日に大切な用があるの」
家族の用事と裕実は言っていたが、よほど大切なことなのだろうか。
疑問に思いながらも、由美は条件付きで引き受けることにした。
「わかりました。今回だけお受けしますが、今後はいっさい交代できませんのでご了承ください」