憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
由美は、はっきりと博子に伝えた。
これまでは博子や裕実になにを言われても曖昧に微笑んで受け流してきた。
博子には言い返すことがなかった由美が、堂々と断りを入れたのだ。
今後は裕実の交代を引き受けないと宣言したので、博子は面食らったようだ。
「わ、わかったわ。じゃあ、今週だけはお願いね」
「はい。裕実さんによろしくお伝えください」
「あなた……」
無理難題を言いだすかと由美は身構えたが、博子はなにも言わなかった。
ただ少し怪訝そうな顔をしていた。
大人しかった由美の変化を、悪い兆候なのかどうか判断に迷っているようだ。
とりあえず由美と土曜日の約束を取り付けたことで満足したのか、博子はソファーから立ちあがった。
「五月さん、お帰りです」
由美はそのまま応接室に残った。五月が見送ってくれるだろう。
由美は博子が部屋を出ていくと、ソファーにぐったりと座り込んだ。
見れば、手のひらに汗をかいている。
(やっぱり緊張してたんだ)
幼い頃から、どうも義母は苦手だった。
母が父と不倫関係にあった事実は消せないのだから、敵意を向けられても仕方がないとは思っている。
だが、母はずっと昔に亡くなっているのだ。
(今でも母を恨んでいるの?)
もう十年以上の時が経っているのに、母に対する怨恨は由美に向けられたままだ。
(それくらい、お父さんを愛しているの?)
義母と父の間にどれほどの愛情があるのか、由美にはわからなかった。
ただ自分は母のようにも、義母のようにもなりたくないと思う。
妻のいる人に報われない思いを抱くのも、愛人を作るような不実な人を愛し続けるのもむなしすぎる。
かつて直哉を愛したために苦しんだ過去を思うと、由美は二度と恋などしたくなかった。