憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
由美たちの足音が遠ざかってから直哉は当直室を出た。まっすぐに自分の部屋に向かう。
普段は自分の担当以外の患者のカルテを見ることはないが、気になって仕方がない。
(ぎりぎりカルテの保存期間内のはずだ)
キーボードに長谷川と入力しかけて、手が止まった。
(そうだ、立花由美だったんだ……)
あの頃、どうして長谷川と名乗っていたのかわかった気がする。
立花家の家族としての扱いを受けていないのなら、由美は苗字を使いたくなかったのだろう。
(あった!)
医者の目で冷静にカルテを見たが、瞬時にマウスを持つ手が止まった。
由美のカルテは、直哉にとっても残酷なものだった。
五年前の十一月初旬、サンフランシスコに来てくれた由美が帰国してすぐの頃だろう。緊急手術が行われていた。
(異所性妊娠⁉)
いわゆる子宮外妊娠で、しかも腹腔内にも出血して由美はショック状態となり命に関わる症状だった。
片方の卵管切除術が行われている。
由美は妊娠に気がついていなかったのかもしれない。
その頃は、おそらく妊娠七週目とある。
『私は……会いたくなかった』
直哉に言ったときの、由美の暗い目が思い出された。
サンフランシスコでの誤解と、帰国してからの残酷な手術……。
由美は心も体も酷く傷ついたことだろう。
会いたくないと言われても仕方がないと思えた。
直哉はパソコンにむかったまま、頭を抱え込んだ。
(由美、すまない……なにも知らなかった……)
自分になにができるのか、なにをすべきなのかを必死で考えていた。