憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
妻の立場
急な美也子の入院の知らせは、もちろん院長夫人の博子にも伝えられた。
西関東総合病院の理事長の娘だった博子は、社交にも長けている。
若い頃から医師や政治家の夫人たちの集まりに積極的に顔を出していたし、ボランティア活動にも参加していた。
連絡を受けた日も、バザーを手伝った後だったのでかなり疲れていた。
自宅に帰る前に病院に顔を出しておこうと、花籠を購入してからタクシーに乗った。
義母とはいえ、美也子とはほとんど付き合いはない。
結婚して四十年近くになるが、夫の実家に泊ったことは一度もないし食事も子どもの祝い事の時にレストランや料亭で一緒にしたくらいだ。
入院したと聞いても、特別な思いはなかった。
家政婦や由美が世話をするだろうから、嫁とはいえ自分の役目はなにもない。
夫の義実は今回もなにも言ってこないだろう。
(いつもそうだ……)
夫は口数が極端に少ない人だ。
付き合っていたころからそうだったから、もう慣れてしまった。
出会った頃は彼の整った顔が知的に思えたし、無口なのも冷静な大人なんだと感じられたものだ。
だから結婚相手として、優秀な医師だし申し分ないと思えた。
だが、いざ家庭に入るとつまらない人だった。
社交的な博子とは正反対で、お喋りを楽しむでもないし友人のパーティーに出かけるでもない。
(退屈な人だわ)
若かった美也子は長男を出産すると、独身時代のように出歩くようになった。
子どもの世話は使用人を雇って任せ、好き勝手なことをしても夫はなにも言わない。
とうとう夫婦は顔を合わせることもなくなった。
ポーカーフェイスの夫に、まさか愛人がいたとは気がつかなかった。
その女性が亡くなって、娘を引き取ると聞いたときの衝撃は忘れられない。