憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


その娘は、博子が産んだ裕実のひとつ年下だという。
自分が妊娠している時に、夫は愛人と……。博子は平静ではいられなかった。

夫からは謝罪の言葉すらないし、娘をどう扱うとも博子に指示することはなかった。

(勝手にすればいい)

親戚の娘を引取ると世間には誤魔化したものの、屋敷にやってきた娘をひと目見たとき言葉を失った。
夫にそっくりだったのだ。
整った知的な顔立ち。スラリとした体躯。
誰が見ても夫の娘に見えるだろう。自分の産んだ娘より、美しい子どもだった。

夫の表情を盗み見ると、いつも通り冷静なままだった。
すぐに弁護士に『あとは任せる』と告げて仕事に出かけてしまった。

だが、博子は気がついた。
夫は罪の意識に苛まれて、その場から逃げ出したのだ。

(後悔しているの?)

博子と結婚したことへの後悔なのか、愛人と別れた後悔なのかわからない。
卑怯にも、自分の子だというのに弁護士と博子に押し付けて出ていったのだ。

(夫に見向きもされない子だもの。私も知らないわ)

博子もその子を見捨てた。
その日のうちに、由美は祖父母の家に引き取られて行った。


< 97 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop