憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


だから、博子は義実の実家と疎遠だ。
どうしても用事がある時は顔を出したが、由美を見るとつい口汚くなってしまうのだ。自分でもどうしようもなかった。

博子の態度を美也子はどう思っていただろう。
だが、美也子はなにも言わなかった。夫との関係も由美への八つ当たりにもなにも言わず博子を責めもしなかった。

この夏、診療所を訪ねた時に『そろそろ施設を探しましょうか』と提案したら、家政婦に物凄く睨まれたのを覚えている。

夫の実家では、博子は邪魔者なのだ。

タクシーの中で過去を思い出していたら、病院の通用口に着いた。

「ご苦労さま」 

院長夫人としての笑顔を忘れずに守衛に挨拶をしながら入った。
その時、タクシーの中でぼんやりしていたから化粧やヘアスタイルが乱れていないかチェックしていなかったのを思い出す。
病院では院長夫人として、いつも美しくあるようにと気を配っているのだ。

花籠だけ先に美也子の部屋に届けてもらうよう守衛に頼んでから、近くの職員用化粧室に急いだ。
化粧を直しているうちになんだかやりきれなくなって、誰にも見られない個室に入ってからため息をついた。

(他人に隠れてため息をつくなんて、なにやっているのかしら……)

自分は誰のために、なんのためにこんな暮らしをしているのだろう。
この大病院の理事長の娘として生まれ、結婚してから今日まで上手くやってきたはずなのに疲れ果ててしまっている。

おまけに娘の結婚相手としてやっとの思いで探し出した医師からは断られるし、義母は入院するし……。

美也子がぼんやりしていたら、数人の話し声が聞こえてきた。
看護師たちが噂話をしているようだ。



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