憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


「ねえ、聞いた? あの噂」
「なになに?」

若いスタッフたちの間でなんの話が始まるのだろうと、興味が湧いてきた。

「柘植先生のことよ」
「ああ。ミミ先生とのこと? 聞いてるわよ」

思わず博子は聞き耳を立てた。

「なんだか柘植先生、立花診療所に通い詰めてるんだって」
「へえ~、よっぽどご執心なのね」
「でも、柘植先生は裕実先生の相手じゃなかったの?」
「まさか、ミミ先生に乗りかえたとはね~」
「でも、お似合いじゃない?」
「そうなのよ。だから余計に悔しいじゃない」

看護師たちはひとしきり喋ると化粧室から出ていった。
‶ミミ先生に乗りかえた”とクスクス笑う声が博子の耳に残った。

(裕実が縁談を断られたって、看護師たちにまでバカにされてるのね)

博子は、足の力が抜けてしまったようで立ち上がるのによろけてしまった。
個室から出ても、まだフラフラする。

(まさか……あの子を選ぶなんて)

自分から夫を奪った女性の娘が、愛娘の結婚相手に選んだ柘植直哉と付き合っているなんて許しがたいではないか。

(あの娘、私たちを嘲笑っているのかしら)

愛人だった母親の恨みを晴らそうとして、裕実の夫にしたいと思っていた柘植を奪ったのだろうかと博子の考えは淀んだ方へと流れていく。

(こんなこと許せない!)

今度こそ自分たち家族から由美を排除してやると、博子は暗い思いを抱いてしまった。
博子には、今日はもう美也子を見舞う元気は残っていない。
花籠を守衛に頼んでおいてよかったと思いながら、博子は屋敷に帰ることにした。
あれこれと策を巡らせながら、脳裏には夫の冷静な顔だけが浮かんできていた。



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