戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
第15話【切ってでも治す】
「あ、脚を切る? 何を言ってるんだ⁉」
「いいから、早くそこに横になりなさい。手遅れになりますよ」
私は理解していないだろう兵士を無理やり横にさせる。
そして、兵士の腰に差してある剣を抜き取り、刃を先ほど塞がれた脚の傷に当てる。
「な、何をする気だ⁉ 止めろ‼」
「私はあなたを、傷付けてでも治します!」
説明している暇がないというわけではないが、説明したところでそれを受け入れる心の準備を待つほどの余裕がない。
塞がった傷口が、固定化される前に早く治療しなければ。
失った脚や腕すら再生できる治癒の魔法でも、一度回復魔法によって傷口を塞がれ、それを身体が覚えてしまった後には治すことができない。
つまり、一度傷口を塞いでしまった彼の脚を取り戻すためには、再び傷口を開いてから再生させるしかないのだ。
それも早くしないとこの兵士の身体がこれを自然だと認識してしまい、いくら傷口を開いても、再生することは困難になる。
そのため、なるべく早くの処置が必要なのだ。
私は兵士が制止しようとする前に、脚の傷口を取った剣で斬りつけた。
一度は塞がった傷口から血が噴き出し、辺りを赤く染める。
「ぐぁぁああ‼」
「きゃあああ‼」
兵士と、それを見ていた者たちが叫び声を上げる。
私は構うことなく、脚を再生するための魔法を唱え、兵士に使った。
魔法の光が兵士のあったはずの脚の形を作り、そして輝きを強めた後に消える。
後には元の脚が、きちんと生えていた。
「な⁉ 俺の! 俺の脚が‼ ああ‼ ありがとう! ありがとうございます‼」
何が起きたのか理解した兵士が、泣き顔でお礼を言ってきた。
私は立ち上がると、剣についた血を布で拭うと兵士に返す。
「私は! 本日この部隊に配属された副隊長のフローラです! ここの状況の詳しい話は後で聞きます! 自分で治せないと判断した兵士は、全て私に任せなさい! 以上、自分の仕事に専念しなさい‼」
私の言葉に、そして胸の徽章に状況を理解したのか、衛生兵たちは慌てた様子で治療に戻る。
その内、一人がおずおずと私の元にやってきて小さな声を出した。
「あの……副隊長。私に彼は治せません……あの、それで……その……」
「分かったわ。自分のできる兵士の治療に専念なさい。そっちは私がやります」
見ると、彼女が担当した兵士は、腹部に大きな傷を受けていた。
外から見ただけでははっきりしないが、おそらく内部まで傷を受けているだろう。
これを初級の治癒魔法で回復するには、何度も魔法をかけ、内部から外へかけて回復をする必要がある。
それはある程度魔力操作ができないと難しく、それが出来ずに魔法をかけると、表層だけ傷が癒え、後から内部をきちんと治すのが逆に難しくなる。
私は全体を一度に回復させる治癒の魔法を使い、腹部の傷を癒していく。
絶望の顔を見せていた兵士は、先ほどのやり取りを見ていたのだろうか、私が癒すことを知ると、安堵の表情に変わった。
結局、魔力枯渇で倒れるぎりぎりまで、多くの兵士を私が治癒することになった。
☆
一通りの治癒を終え、一度休憩するために自室に戻ろうとした途中で、兵士にゾイスが私を呼んでいると報告があった。
私は頭痛を抱えながら、ゾイスの居る司令室へと足を運んだ。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、君か。まったく。フローラ君、だっけ? 面倒なことをしてくれたね」
「面倒なこと……? とは、何のことでしょうか?」
「はぁ……君ね。この部隊の負傷兵の致死率がどれくらいか知ってる?」
何のことを言いたいのか分からないが、王都からここに来る道中、この部隊のことを知ろうと報告書には目を通してある。
確か記憶では、ここの致死率は極端に低く、5パーセント程度だったはずだ。
私はそれを見て、大したものだと感心した記憶があるから、数値に間違いはないはずだ。
「確か、5パーセント程だったと記憶していますが……それが何か?」
「4.876パーセントだよ。君、これがどれだけ凄いか分かる?」
確かに、私が配属されたばかりの時の第五部隊の致死率は40パーセントを超えていた。
それから見れば、この数値がいかに低いかは言われなくても分かる。
「何でも君、他の衛生兵から負傷兵を奪っては治していったそうじゃないか。一体どう言うつもりだい?」
「同じ衛生兵でも、技能に未熟な者が居ます。治せない者に治療させては、完治はできません」
「完治したかどうかなんて関係ないんだよ! 生きてるか死んだかが重要なんだ! 君、報告書に完治率なんてどこにもないんだよ⁉ そんなこと気にしてどうすんのさ」
「仰っている意味が分かりませんが……?」
私の返答にゾイスは一度息を吐き出し、更にまくし立てる。
「必要なのは、低い致死率と! それと延べ人数だよ! 君一人じゃ、人数増やせないだろ⁉ 何? 一人で三十人分働くの⁉ 働けないだろ‼ 余計なことしてないで、兵士なんて生きてりゃいいんだよ。生きてりゃ。腕が無かろうが、脚が無かろうが生きてりゃね!」
私は唾を飛ばしながら喚くこの生き物を、目を細めて一言も返さずに見ていた。
どうやらゾイスは、兵士の生き死にや健全な肉体を取り戻すことよりも、この部隊の成績、しかも上官に報告するための数値だけに興味があるようだ。
私は冷めた目でゾイスを見つめる。
その目線に気が付いたのか、少したじろいた後、ゾイスは更に言葉を発した。
「と、とにかく。余計なことは許さないよ。これは部隊長命令だ。君はそれを守る義務がある。分かったね? 分かったら、もう、行ってよし!」
「分かりました。失礼します」
私は礼をせず、司令室を後にした。
そして痛む頭に手を当て、思考にふける。
ゾイスが言う通り、致死率を下げることには私も異存はない。
治療できた兵士の人数が多いことが良いことなのも、問題はない。
しかし目的が違う。
おそらくゾイスは、自分の評価を上げることが目的なのだろう。
私の考え方とは、根本的に違うのだ。
そんな生き物が部隊長だというこの部隊を、今後どうすればいいか、私は深く考えていた。
「いいから、早くそこに横になりなさい。手遅れになりますよ」
私は理解していないだろう兵士を無理やり横にさせる。
そして、兵士の腰に差してある剣を抜き取り、刃を先ほど塞がれた脚の傷に当てる。
「な、何をする気だ⁉ 止めろ‼」
「私はあなたを、傷付けてでも治します!」
説明している暇がないというわけではないが、説明したところでそれを受け入れる心の準備を待つほどの余裕がない。
塞がった傷口が、固定化される前に早く治療しなければ。
失った脚や腕すら再生できる治癒の魔法でも、一度回復魔法によって傷口を塞がれ、それを身体が覚えてしまった後には治すことができない。
つまり、一度傷口を塞いでしまった彼の脚を取り戻すためには、再び傷口を開いてから再生させるしかないのだ。
それも早くしないとこの兵士の身体がこれを自然だと認識してしまい、いくら傷口を開いても、再生することは困難になる。
そのため、なるべく早くの処置が必要なのだ。
私は兵士が制止しようとする前に、脚の傷口を取った剣で斬りつけた。
一度は塞がった傷口から血が噴き出し、辺りを赤く染める。
「ぐぁぁああ‼」
「きゃあああ‼」
兵士と、それを見ていた者たちが叫び声を上げる。
私は構うことなく、脚を再生するための魔法を唱え、兵士に使った。
魔法の光が兵士のあったはずの脚の形を作り、そして輝きを強めた後に消える。
後には元の脚が、きちんと生えていた。
「な⁉ 俺の! 俺の脚が‼ ああ‼ ありがとう! ありがとうございます‼」
何が起きたのか理解した兵士が、泣き顔でお礼を言ってきた。
私は立ち上がると、剣についた血を布で拭うと兵士に返す。
「私は! 本日この部隊に配属された副隊長のフローラです! ここの状況の詳しい話は後で聞きます! 自分で治せないと判断した兵士は、全て私に任せなさい! 以上、自分の仕事に専念しなさい‼」
私の言葉に、そして胸の徽章に状況を理解したのか、衛生兵たちは慌てた様子で治療に戻る。
その内、一人がおずおずと私の元にやってきて小さな声を出した。
「あの……副隊長。私に彼は治せません……あの、それで……その……」
「分かったわ。自分のできる兵士の治療に専念なさい。そっちは私がやります」
見ると、彼女が担当した兵士は、腹部に大きな傷を受けていた。
外から見ただけでははっきりしないが、おそらく内部まで傷を受けているだろう。
これを初級の治癒魔法で回復するには、何度も魔法をかけ、内部から外へかけて回復をする必要がある。
それはある程度魔力操作ができないと難しく、それが出来ずに魔法をかけると、表層だけ傷が癒え、後から内部をきちんと治すのが逆に難しくなる。
私は全体を一度に回復させる治癒の魔法を使い、腹部の傷を癒していく。
絶望の顔を見せていた兵士は、先ほどのやり取りを見ていたのだろうか、私が癒すことを知ると、安堵の表情に変わった。
結局、魔力枯渇で倒れるぎりぎりまで、多くの兵士を私が治癒することになった。
☆
一通りの治癒を終え、一度休憩するために自室に戻ろうとした途中で、兵士にゾイスが私を呼んでいると報告があった。
私は頭痛を抱えながら、ゾイスの居る司令室へと足を運んだ。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、君か。まったく。フローラ君、だっけ? 面倒なことをしてくれたね」
「面倒なこと……? とは、何のことでしょうか?」
「はぁ……君ね。この部隊の負傷兵の致死率がどれくらいか知ってる?」
何のことを言いたいのか分からないが、王都からここに来る道中、この部隊のことを知ろうと報告書には目を通してある。
確か記憶では、ここの致死率は極端に低く、5パーセント程度だったはずだ。
私はそれを見て、大したものだと感心した記憶があるから、数値に間違いはないはずだ。
「確か、5パーセント程だったと記憶していますが……それが何か?」
「4.876パーセントだよ。君、これがどれだけ凄いか分かる?」
確かに、私が配属されたばかりの時の第五部隊の致死率は40パーセントを超えていた。
それから見れば、この数値がいかに低いかは言われなくても分かる。
「何でも君、他の衛生兵から負傷兵を奪っては治していったそうじゃないか。一体どう言うつもりだい?」
「同じ衛生兵でも、技能に未熟な者が居ます。治せない者に治療させては、完治はできません」
「完治したかどうかなんて関係ないんだよ! 生きてるか死んだかが重要なんだ! 君、報告書に完治率なんてどこにもないんだよ⁉ そんなこと気にしてどうすんのさ」
「仰っている意味が分かりませんが……?」
私の返答にゾイスは一度息を吐き出し、更にまくし立てる。
「必要なのは、低い致死率と! それと延べ人数だよ! 君一人じゃ、人数増やせないだろ⁉ 何? 一人で三十人分働くの⁉ 働けないだろ‼ 余計なことしてないで、兵士なんて生きてりゃいいんだよ。生きてりゃ。腕が無かろうが、脚が無かろうが生きてりゃね!」
私は唾を飛ばしながら喚くこの生き物を、目を細めて一言も返さずに見ていた。
どうやらゾイスは、兵士の生き死にや健全な肉体を取り戻すことよりも、この部隊の成績、しかも上官に報告するための数値だけに興味があるようだ。
私は冷めた目でゾイスを見つめる。
その目線に気が付いたのか、少したじろいた後、ゾイスは更に言葉を発した。
「と、とにかく。余計なことは許さないよ。これは部隊長命令だ。君はそれを守る義務がある。分かったね? 分かったら、もう、行ってよし!」
「分かりました。失礼します」
私は礼をせず、司令室を後にした。
そして痛む頭に手を当て、思考にふける。
ゾイスが言う通り、致死率を下げることには私も異存はない。
治療できた兵士の人数が多いことが良いことなのも、問題はない。
しかし目的が違う。
おそらくゾイスは、自分の評価を上げることが目的なのだろう。
私の考え方とは、根本的に違うのだ。
そんな生き物が部隊長だというこの部隊を、今後どうすればいいか、私は深く考えていた。