戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
第27話【交差】
アイオラの承諾を得て、私はおそらく人類で初めてとなる試みを行う。
頭の中に先ほど魔力で読み取った、アイオラの頭の中に居る魔獣の位置を思い浮かべる。
右手を正面から当て、後頭部に当てた左手に向け、攻撃魔法に適した魔力を流し込む。
問題は加減だ。
強過ぎればアイオラの頭の中を損傷し下手をすれば死に至らしめてしまう。
弱過ぎれば魔獣を殺すことが出来ずに、下手をすれば余計な刺激を魔獣に与えてしまうことになるかもしれない。
私は慣れない操作ながらも、まずは極力弱い力から、徐々にその出力を上げていく。
上げていく間に、初めはじっとしていたアイオラの顔が苦痛に歪む。
「これ以上は無理なようね」
私は慌てて出力を弱める。
そしてもう一度従来の魔力を練り直し、アイオラの頭の中を覗く。
魔獣は何事もなかったかのように、先ほどと同じ場所に居た。
刺激で動き出さなかっただけでも幸いと思うべきか。
「これじゃあダメだわ。魔獣を殺す前にアイオラの身体がまいってしまう。何かいい方法は無いかしら……」
「部隊長! 兄は、アイオラは助かるんでしょうか⁉」
悩んでる私に、堪えきれなくなったのか、ロベリアが話しかけてくる。
心配なのは分かる。
私だってどうにかして助けてやりたい。
だけど、この魔獣を倒すには私一人では無理なようだ。
「私一人では……? ロベリア‼ あなた、元の魔力の練り方は、まだ覚えているわね⁉」
「え……? 元の魔力ですか? 覚えているも何も、どんなに頑張ってもあれ以外出来なくて……」
「それでいいの。あなたに手伝って欲しいことがあるわ。あなたの力で、アイオラを救えるかもしれない!」
「本当ですか⁉ わたしに出来ることなら、なんでもやります‼ やらせてください‼」
私はロベリアに魔力を練るように伝える。
そして練った魔力を右手に集めさせた。
私の指示に従い、ロベリアは器用に魔力を操作する。
回復魔法に適した魔力ではないが、魔力操作については優秀なようだ。
魔力を溜めた右手を、こめかみの位置に当てさせ、反対側から挟むように左手を添えさせた。
私が手を当ててる位置から、ちょうど交差するようになっている。
「そこから決して手の位置を動かさないでね。ロベリア、右手から左手にかけて、アイオラの頭を通して、その魔力を移動させてみて。一度に流し過ぎないよう、注意してね」
「こうですか?」
アイオラに当てた私の手を通じて、ロベリアの魔力の波動が伝わってくる。
どうやら上手くいっているようだ。
「上手よ。そのまま少しずつ出力を上げていってちょうだい。待って! これ以上は危険。少しだけ出力を下げた状態で続けてちょうだい」
「分かりました……あの、これで本当に兄が助かるんですか?」
「確証はないわ。でも、やらなければ確実に助けられない。だったら、やるべきでしょう?」
そう言って、私も自分の右手から左手にかけて、魔力を流し込む。
少し扱いが慣れてきたのか、攻撃魔法に適した魔力でも、中の様子が分かるようになってきた。
私の時同様、ロベリア一人では、アイオラに危害を与えない程度の出力しか出せず、魔獣を倒すことは出来ない。
では二人なら?
交差するように魔力を当てて、その交わる点に魔獣が居たら?
二人分の魔力を受け、耐えられないのではないだろうか。
私は徐々に出力を上げていく。
すると、アイオラの中にいる魔獣に異変が生じ始めた。
明らかに苦しそうに、その小さな体を小刻みに震わせている。
アイオラもその様子が自分の体内で分かるのか、顔をしかめている。
そして、先ほど確認したアイオラの耐えられるぎりぎりの所まで出力を上げた時、魔獣は動くのを止めた。
念の為しばらく様子を見てみたが、どうやら完全に息絶えたようだ。
「ロベリア。もう止めて大丈夫よ。あなたのおかげで、無事にアイオラの中の魔獣は倒せたわ。お礼を言うわね。ありがとう」
「本当ですか⁉ ああ、兄さん‼ 良かった……本当に良かった‼ ありがとうございます‼ ありがとうございます‼」
「何がどうなったんです? 私は……本当に助かったのですか?」
「ええ。間違いなく、あなたの目の裏の魔獣は倒したわ。さぁ、もう一度目の治療をしましょう。今度こそ視界が取り戻せるはずよ」
私は再び本来の回復魔法のための魔力を練り始める。
そして、アイオラに回復魔法を唱えた。
白い光が私の手を伝わり、アイオラの両目の周りを包み込む。
やがて光が消えると、アイオラの目に光が点っていた。
「ああ……ああ。見えます。ああ! ロベリア! こうやって再びお前の顔を見ることが出来るなんて‼」
「兄さん‼ 本当に良かった‼」
「あなたのおかげで、これからの治療の新しい可能性が見いだせたわ。ありがとう」
「そんな! お礼を言うのは俺の方です‼ ありがとうございました‼」
アイオラは見えるようになった目で私をしっかり見つめ、そして深々と頭を下げた。
ロベリアも隣で兄と同じように頭を下げている。
「ふふ。兄妹というのはいいものね。ところで……ロベリアは回復魔法を使えるようにならないと、ここに残ることが出来ないというのは覚えているかしら?」
「あ……あの! もう少しだけ時間をください‼ なんとか、何とかしてみせますから‼」
「いいえ。きっと一人では無理よ。でもね。両方使うことが出来るようになった私のアドバイスを受けながらなら、直ぐにできるようになると思うわ。あなたの魔力操作の実力があればね」
「え⁉ お願いします‼ 私、頑張りますから‼」
もう一度下げたロベリアの頭を私は優しく撫でる。
「さぁ。頭を上げなさい。下げている暇があったら、訓練するわよ!」
「はい‼」
数日後、練る魔力の感覚の違いや、気を付ける所はどこかを私から教わったロベリアは、回復魔法に必要な魔力を練ることが出来るようになった。
こうして、第一期訓練生の全員が、無事に回復魔法を習得した。
頭の中に先ほど魔力で読み取った、アイオラの頭の中に居る魔獣の位置を思い浮かべる。
右手を正面から当て、後頭部に当てた左手に向け、攻撃魔法に適した魔力を流し込む。
問題は加減だ。
強過ぎればアイオラの頭の中を損傷し下手をすれば死に至らしめてしまう。
弱過ぎれば魔獣を殺すことが出来ずに、下手をすれば余計な刺激を魔獣に与えてしまうことになるかもしれない。
私は慣れない操作ながらも、まずは極力弱い力から、徐々にその出力を上げていく。
上げていく間に、初めはじっとしていたアイオラの顔が苦痛に歪む。
「これ以上は無理なようね」
私は慌てて出力を弱める。
そしてもう一度従来の魔力を練り直し、アイオラの頭の中を覗く。
魔獣は何事もなかったかのように、先ほどと同じ場所に居た。
刺激で動き出さなかっただけでも幸いと思うべきか。
「これじゃあダメだわ。魔獣を殺す前にアイオラの身体がまいってしまう。何かいい方法は無いかしら……」
「部隊長! 兄は、アイオラは助かるんでしょうか⁉」
悩んでる私に、堪えきれなくなったのか、ロベリアが話しかけてくる。
心配なのは分かる。
私だってどうにかして助けてやりたい。
だけど、この魔獣を倒すには私一人では無理なようだ。
「私一人では……? ロベリア‼ あなた、元の魔力の練り方は、まだ覚えているわね⁉」
「え……? 元の魔力ですか? 覚えているも何も、どんなに頑張ってもあれ以外出来なくて……」
「それでいいの。あなたに手伝って欲しいことがあるわ。あなたの力で、アイオラを救えるかもしれない!」
「本当ですか⁉ わたしに出来ることなら、なんでもやります‼ やらせてください‼」
私はロベリアに魔力を練るように伝える。
そして練った魔力を右手に集めさせた。
私の指示に従い、ロベリアは器用に魔力を操作する。
回復魔法に適した魔力ではないが、魔力操作については優秀なようだ。
魔力を溜めた右手を、こめかみの位置に当てさせ、反対側から挟むように左手を添えさせた。
私が手を当ててる位置から、ちょうど交差するようになっている。
「そこから決して手の位置を動かさないでね。ロベリア、右手から左手にかけて、アイオラの頭を通して、その魔力を移動させてみて。一度に流し過ぎないよう、注意してね」
「こうですか?」
アイオラに当てた私の手を通じて、ロベリアの魔力の波動が伝わってくる。
どうやら上手くいっているようだ。
「上手よ。そのまま少しずつ出力を上げていってちょうだい。待って! これ以上は危険。少しだけ出力を下げた状態で続けてちょうだい」
「分かりました……あの、これで本当に兄が助かるんですか?」
「確証はないわ。でも、やらなければ確実に助けられない。だったら、やるべきでしょう?」
そう言って、私も自分の右手から左手にかけて、魔力を流し込む。
少し扱いが慣れてきたのか、攻撃魔法に適した魔力でも、中の様子が分かるようになってきた。
私の時同様、ロベリア一人では、アイオラに危害を与えない程度の出力しか出せず、魔獣を倒すことは出来ない。
では二人なら?
交差するように魔力を当てて、その交わる点に魔獣が居たら?
二人分の魔力を受け、耐えられないのではないだろうか。
私は徐々に出力を上げていく。
すると、アイオラの中にいる魔獣に異変が生じ始めた。
明らかに苦しそうに、その小さな体を小刻みに震わせている。
アイオラもその様子が自分の体内で分かるのか、顔をしかめている。
そして、先ほど確認したアイオラの耐えられるぎりぎりの所まで出力を上げた時、魔獣は動くのを止めた。
念の為しばらく様子を見てみたが、どうやら完全に息絶えたようだ。
「ロベリア。もう止めて大丈夫よ。あなたのおかげで、無事にアイオラの中の魔獣は倒せたわ。お礼を言うわね。ありがとう」
「本当ですか⁉ ああ、兄さん‼ 良かった……本当に良かった‼ ありがとうございます‼ ありがとうございます‼」
「何がどうなったんです? 私は……本当に助かったのですか?」
「ええ。間違いなく、あなたの目の裏の魔獣は倒したわ。さぁ、もう一度目の治療をしましょう。今度こそ視界が取り戻せるはずよ」
私は再び本来の回復魔法のための魔力を練り始める。
そして、アイオラに回復魔法を唱えた。
白い光が私の手を伝わり、アイオラの両目の周りを包み込む。
やがて光が消えると、アイオラの目に光が点っていた。
「ああ……ああ。見えます。ああ! ロベリア! こうやって再びお前の顔を見ることが出来るなんて‼」
「兄さん‼ 本当に良かった‼」
「あなたのおかげで、これからの治療の新しい可能性が見いだせたわ。ありがとう」
「そんな! お礼を言うのは俺の方です‼ ありがとうございました‼」
アイオラは見えるようになった目で私をしっかり見つめ、そして深々と頭を下げた。
ロベリアも隣で兄と同じように頭を下げている。
「ふふ。兄妹というのはいいものね。ところで……ロベリアは回復魔法を使えるようにならないと、ここに残ることが出来ないというのは覚えているかしら?」
「あ……あの! もう少しだけ時間をください‼ なんとか、何とかしてみせますから‼」
「いいえ。きっと一人では無理よ。でもね。両方使うことが出来るようになった私のアドバイスを受けながらなら、直ぐにできるようになると思うわ。あなたの魔力操作の実力があればね」
「え⁉ お願いします‼ 私、頑張りますから‼」
もう一度下げたロベリアの頭を私は優しく撫でる。
「さぁ。頭を上げなさい。下げている暇があったら、訓練するわよ!」
「はい‼」
数日後、練る魔力の感覚の違いや、気を付ける所はどこかを私から教わったロベリアは、回復魔法に必要な魔力を練ることが出来るようになった。
こうして、第一期訓練生の全員が、無事に回復魔法を習得した。