戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
第3話【誘い】
私が目を覚ますと、そこは陣営の休息所だった。
一応他の人々と別室を用意してもらってはいるものの、汚れたこの姿で運び入れていいのか悩んでここに運んだと、始めに助けた青年兵士が言った。
「確か……クロムだったわね。ありがとう。起きるまで私をずっと見ていたの?」
「名前を覚えていただき光栄です‼ 聖女様。魔王討伐軍第三攻撃部隊所属のクロムと申します! 失礼ながら、そうであります‼」
「そう……そんなに畏まらなくてもいいのよ。それと、その『聖女』というのはどうにかならないかしら」
「お気に召しませんか? 貴女のことは奇跡を起こした聖女様とみんな呼んでいますが……」
みながそう呼んでいるのなら今から止めるのも無理があるだろう。
まぁ呼び方などより実態が大事なのだから問題とするほどでもない。
「いえ、いいわ。私のことは好きに呼んでちょうだい。それで、どのくらい私は寝てたのかしら?」
「ちょうど半日、つまり十時間ほど寝てらっしゃいました」
一日が二十時間、あの時既に日をまたいでいたから、今は正午過ぎということだろう。
いくら魔力を使い切ったからといって、少し寝すぎてしまったようだ。
「ありがとう。それにしても……さすがに臭うわね。水浴びをして着替えたいのだけれど、場所を知っているかしら?」
「分かりました! 今聞いてきます‼」
そう言うとクロムは私の役に立つのが嬉しいのか、喜び勇んで駆け出していった。
その後陣営の一角で水を使い臭いと汚れを洗い流し、新しい服へと着替える。
「あら? まだ居たのね。クロムも少し休んで、本隊に戻ったら?」
「いえ。実は……恥ずかしながら自分は既に部隊から除名扱いされていたようで……」
そう言いながらクロムは右手の人差し指で頬をかく。
どうやら水浴びをしている間にそのことを知ったらしい。
「まぁ! 何故? あなたはまだ生きているのに」
「まさかあの状態で助かるなどと、誰も思っていなかったようです。自分ですらそう思っていますから。仕方ありません」
部隊は除名されたけれど、本人たっての希望で、ここ第五衛生兵部隊の守衛兵として任を受けることにしたらしい。
戦場から少し離れたこの陣営でも、はぐれの魔獣などが現れるため、それを討伐する者が何人かは必要なのだ。
「せっかく助かった命だし、除名されたのなら軍役は終わるのでしょう? 故郷に戻っても良かったんじゃない?」
「いえ! 自分は、聖女様に救っていただいたこの命、聖女様をお守りするために使うと決めましたから‼」
どうやらこれ以上何を言っても仕方がないようだ。
いずれにしろ軍官に昇進しなければ、長くても数年で軍役は終えるのだ。
それまでは彼の好きなようにさせてあげるのが、彼のためだろう。
もしまた傷つくことがあっても、死んでなければ助けてあげられるかもしれない。
「分かったわ。ありがとう。でも、無理をしないでね。死んでしまっては、私も助けられないから」
「分かりました‼ 肝に銘じます‼」
「それはそうと、今、治療場はどうなっているの?」
「聖女様が眠りに就かれてからも、何人かは重篤な兵が運ばれてきましたが、みなで力を合わせて無事回復しています。今は命に別状がある者は居ないかと」
私はそれを聞いて安心した。
寝ている間に誰か死んでしまったというのでは、さすがに寝覚めが悪い。
不可抗力はあるとはいえ、私が寝すぎていたのは確かだ。
おそらく初めての戦場の雰囲気に、死と隣合わせの現実に、気付かぬうちに緊張していたのだろう。
私はクロムに治療場に向かうと伝え、その場を後にした。
クロムは名残惜しそうな顔をしていたが、本来の業務である陣営周辺の警備にあたると言い私とは別の方へ去っていく。
治療場に足を踏み入れた私は、その場の雰囲気が昨日と打って変わっていたことに驚きを隠せなかった。
昨日見たここに居る人たちは、負傷兵もその治癒に当たる人々も悲壮と諦めに満ちていた。
しかし、今は希望とやる気が見える。
兵士たちは怪我を治し生きる気力を、治す側は死んでいなければ治すのだという自信を持ち始めたようだ。
「あ! 聖女様‼ みんな! 聖女様がお越しになられた!」
「聖女様! この兵はデススコーピオの毒にやられているのです。どうか解毒をお願いします! 私たちに解毒の魔法を使える者がいなくて……」
私は指さされた兵に目を向ける。
確かに腕が青紫色に腫れ上がり、そこから手先と肩に向けて毒が回っているのが分かった。
「分かったわ。ところで、そんなに畏まらなくても……いえ、いいわ。好きにしてちょうだい。さて、と。今治すわね」
私は毒を受けた兵に近寄ると、解毒の魔法を唱え始める。
一言で解毒といっても、簡単な毒しか治すことのできない初級から、大抵の毒を治すことができる上級までいくつか種類がある。
デススコーピオの毒を治すのには中級以上の解毒の魔法が必要だ。
そこで私は中級の魔法を使い解毒を完了させた。
「おお! さすがです! デススコーピオの毒をいとも簡単に‼」
「ありがたい。俺たちには聖女様がついている‼ こんな怪我なんかに負けずに魔王をぶっ飛ばしてやる‼」
「他に解毒が必要な人はいるかしら?」
「いえ、昨日あらかた治していただいたので、今居るのは毒も呪いも無い者ばかりです」
どうやら少し時間をとることができそうだ。
そこで私は昨日回復魔法を唱えることができないと言っていた人たちに声をかける。
「あなたたち。回復魔法を覚える気はないかしら?」
一応他の人々と別室を用意してもらってはいるものの、汚れたこの姿で運び入れていいのか悩んでここに運んだと、始めに助けた青年兵士が言った。
「確か……クロムだったわね。ありがとう。起きるまで私をずっと見ていたの?」
「名前を覚えていただき光栄です‼ 聖女様。魔王討伐軍第三攻撃部隊所属のクロムと申します! 失礼ながら、そうであります‼」
「そう……そんなに畏まらなくてもいいのよ。それと、その『聖女』というのはどうにかならないかしら」
「お気に召しませんか? 貴女のことは奇跡を起こした聖女様とみんな呼んでいますが……」
みながそう呼んでいるのなら今から止めるのも無理があるだろう。
まぁ呼び方などより実態が大事なのだから問題とするほどでもない。
「いえ、いいわ。私のことは好きに呼んでちょうだい。それで、どのくらい私は寝てたのかしら?」
「ちょうど半日、つまり十時間ほど寝てらっしゃいました」
一日が二十時間、あの時既に日をまたいでいたから、今は正午過ぎということだろう。
いくら魔力を使い切ったからといって、少し寝すぎてしまったようだ。
「ありがとう。それにしても……さすがに臭うわね。水浴びをして着替えたいのだけれど、場所を知っているかしら?」
「分かりました! 今聞いてきます‼」
そう言うとクロムは私の役に立つのが嬉しいのか、喜び勇んで駆け出していった。
その後陣営の一角で水を使い臭いと汚れを洗い流し、新しい服へと着替える。
「あら? まだ居たのね。クロムも少し休んで、本隊に戻ったら?」
「いえ。実は……恥ずかしながら自分は既に部隊から除名扱いされていたようで……」
そう言いながらクロムは右手の人差し指で頬をかく。
どうやら水浴びをしている間にそのことを知ったらしい。
「まぁ! 何故? あなたはまだ生きているのに」
「まさかあの状態で助かるなどと、誰も思っていなかったようです。自分ですらそう思っていますから。仕方ありません」
部隊は除名されたけれど、本人たっての希望で、ここ第五衛生兵部隊の守衛兵として任を受けることにしたらしい。
戦場から少し離れたこの陣営でも、はぐれの魔獣などが現れるため、それを討伐する者が何人かは必要なのだ。
「せっかく助かった命だし、除名されたのなら軍役は終わるのでしょう? 故郷に戻っても良かったんじゃない?」
「いえ! 自分は、聖女様に救っていただいたこの命、聖女様をお守りするために使うと決めましたから‼」
どうやらこれ以上何を言っても仕方がないようだ。
いずれにしろ軍官に昇進しなければ、長くても数年で軍役は終えるのだ。
それまでは彼の好きなようにさせてあげるのが、彼のためだろう。
もしまた傷つくことがあっても、死んでなければ助けてあげられるかもしれない。
「分かったわ。ありがとう。でも、無理をしないでね。死んでしまっては、私も助けられないから」
「分かりました‼ 肝に銘じます‼」
「それはそうと、今、治療場はどうなっているの?」
「聖女様が眠りに就かれてからも、何人かは重篤な兵が運ばれてきましたが、みなで力を合わせて無事回復しています。今は命に別状がある者は居ないかと」
私はそれを聞いて安心した。
寝ている間に誰か死んでしまったというのでは、さすがに寝覚めが悪い。
不可抗力はあるとはいえ、私が寝すぎていたのは確かだ。
おそらく初めての戦場の雰囲気に、死と隣合わせの現実に、気付かぬうちに緊張していたのだろう。
私はクロムに治療場に向かうと伝え、その場を後にした。
クロムは名残惜しそうな顔をしていたが、本来の業務である陣営周辺の警備にあたると言い私とは別の方へ去っていく。
治療場に足を踏み入れた私は、その場の雰囲気が昨日と打って変わっていたことに驚きを隠せなかった。
昨日見たここに居る人たちは、負傷兵もその治癒に当たる人々も悲壮と諦めに満ちていた。
しかし、今は希望とやる気が見える。
兵士たちは怪我を治し生きる気力を、治す側は死んでいなければ治すのだという自信を持ち始めたようだ。
「あ! 聖女様‼ みんな! 聖女様がお越しになられた!」
「聖女様! この兵はデススコーピオの毒にやられているのです。どうか解毒をお願いします! 私たちに解毒の魔法を使える者がいなくて……」
私は指さされた兵に目を向ける。
確かに腕が青紫色に腫れ上がり、そこから手先と肩に向けて毒が回っているのが分かった。
「分かったわ。ところで、そんなに畏まらなくても……いえ、いいわ。好きにしてちょうだい。さて、と。今治すわね」
私は毒を受けた兵に近寄ると、解毒の魔法を唱え始める。
一言で解毒といっても、簡単な毒しか治すことのできない初級から、大抵の毒を治すことができる上級までいくつか種類がある。
デススコーピオの毒を治すのには中級以上の解毒の魔法が必要だ。
そこで私は中級の魔法を使い解毒を完了させた。
「おお! さすがです! デススコーピオの毒をいとも簡単に‼」
「ありがたい。俺たちには聖女様がついている‼ こんな怪我なんかに負けずに魔王をぶっ飛ばしてやる‼」
「他に解毒が必要な人はいるかしら?」
「いえ、昨日あらかた治していただいたので、今居るのは毒も呪いも無い者ばかりです」
どうやら少し時間をとることができそうだ。
そこで私は昨日回復魔法を唱えることができないと言っていた人たちに声をかける。
「あなたたち。回復魔法を覚える気はないかしら?」