戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
第32話【循環】
「すいません! 今回もダメです‼︎」
「大丈夫! そろそろ魔力が消えかかっているようね。少し休みなさい。でも、私の治療を見ているのよ」
かなりの時間、互いに試行錯誤をしながらサルビアの訓練を続けていたものの、結果は芳しくはなかった。
その主な理由は感覚の違い。
デイジーに解呪の魔法を指導する際には、私の感覚とデイジーの感覚がたまたま似通っていたおかげか、時間はかかったものの、何とか習得してもらうことができた。
しかし、先ほどの解毒の魔法の感覚が大きく違ったように、私とサルビアの感覚には大きな隔たりがあるようだ。
「ごめんなさい。何かいい方法があればいいのだけれど……」
「そんな! 聖女様は一つも悪くありません! こんなに時間を割いて指導いただいているのに、できない私が悪いんです‼︎」
その場に座り込みながら、消耗した魔力を回復させるサルビアがそう言う。
私は首を横に振り、どうにかならないかと思案していた。
やはり一番重要なのは、感覚だ。
デイジーが解呪の魔法を覚えた時も、口頭でだが私が解呪の魔法を使う時の感覚を伝えたことがきっかけだった。
それまで何度やっても失敗していたデイジーだったが、感覚を伝えた途端、何か気づきがあったようで、数日間独自に訓練をしていた。
その後、再び解呪に挑戦し、完全に解呪するまではいかなかったものの、使う際に必要な感覚が掴めたと、喜んでいた。
悩みで気が疎かになっていた矢先、聞き覚えのある声同士の会話がふと耳に入った。
声のする方を見ると、ロベリアが負傷兵として運ばれてきたアイオラと話している。
「兄さん! また怪我をしたの?」
「あはは。そりゃあ、戦闘をしているんだから怪我はいつだってするさ。それに今回は前回みたいな酷いものじゃない。大丈夫だよ」
「そうよね……安心して! 兄さんや他の兵士さんがいくら傷ついたって、聖女様のいるこの部隊がたちまち綺麗さっぱり治しちゃうんだから!」
「そりゃあ頼もしいなぁ。ロベリアも頑張っているみたいだね。さぁさ、仕事中だろう? いつまでも油を売ってないで持ち場に戻るんだよ」
「残念でした! 今は休憩時間ですー。あ、でも他の人に邪魔になるから、そろそろいくわね。兄さんも無茶しないでね」
「ああ。今回の怪我はアンバー部隊長を庇って受けた傷でね。僕としては敬愛する部隊長を守れて、誇りに思っているんだけど、案の定、本人にこってり怒られたよ」
珍しく明るい雰囲気に私はついつい聴き入ってしまっていた。
そこで、あることを思い出す。
「ちょっと、一瞬だけ外すわね」
そう言って、私はアイオラの方へと向かい、声をかけた。
「久しぶりね。アイオラ。ロベリアはその後しっかりやってくれているわ。ところで、あなたに少しだけ教えて欲しいことがあるの」
「これは聖女様。あの節は本当にありがとうございました。おかげでこうしてあなたやロベリアの顔を見ることもできますし、未だに生きています」
「時間があまりないから単刀直入に言うわね。前に私に魔力の練り方を教えてくれたでしょう? あれは、どうやってやるの?」
「え? ああ、あの方法ですか……すいません。まさか聖女様だとはあの時は分からず、生意気を言ってしまって」
アイオラは一瞬驚いた顔をして、それから頭を下げた。
あの時は目が見えなかったし、そもそもアイオラが攻撃魔法用の魔力の練る場所を教えてくれたおかげで、彼を助けることができたのだから、感謝しかない。
「いいのよ。それで、あれは誰でもできるのかしら?」
「ええ。魔力をすでに練ることができる人なら誰でも。練った魔力を、繋いだ手を通して相手に送るんです。相手が力を抜いていれば、その魔力は最も通りやすい場所を通ってから、反対の手に流れます。昔、ロベリアと遊んでいる時に気づいたんですが……」
「ありがとう! 分かったわ。ちょっとやってみるわね。手を貸してくれるかしら?」
「え? ええ。でも、私はもう既に魔力の練り方を知っていますから、今さら……ああ、通すことができるかの確認ですね。それなら知っている相手にやってみた方が間違いが少ない」
そう言いながら、アイオラは私の差し出した両手を握り返した。
さっそく回復魔法を使うための魔力を練り、右手からアイオラの手に通すようイメージする。
すると、確かに手を通してアイオラの身体に私の魔力が流れていく。
よく考えれば、私自身も、魔力を右手から左手へとアイオラの頭の中を通したことがある。
あれは意識的に魔力の流れを制御して、まっすぐ手の間を流していたけれど、今回は送った後のことは、分からない。
少しの時間の差があってから、右手に送った魔力と同じものが、アイオラの手から私の左手へと流れ込んできた。
「どう? できているかしら?」
「え、ええ……できている、と思うんですが。何故か経路も、熱を帯びる場所も違うように思います。普通だとへその下辺りが暖かくなるんですが、今は胸の辺りが暖かくなりました」
「本当? それでいいの。成功よ。ありがとう!」
「え? そうなんですか? なんだか分かりませんが、お役に立てて良かったです。それでは、僕もいつまでもここで休んでいるわけにはいかないので失礼しますね。部隊長を心配させるといけませんから」
そう言うとアイオラは軍式の敬礼をしてから、治療場を後にした。
私は、すぐに戻り治療を再開する。
それを見ていたサルビアが不思議そうな顔を私に向け、質問を投げかけてきた。
「聖女様。あの人ってロベリアのお兄さんですよね? いきなり手を握りしめたりして、どうしたんですか? まさか、聖女様のいい人ですか⁉︎」
「何を馬鹿なこと言っているの。違うわよ。それはそうと、サルビア。魔力が回復したら、ちょっと試したいことがあるの」
不思議そうな顔のままのサルビアに向かって、私は笑みを送った。
「大丈夫! そろそろ魔力が消えかかっているようね。少し休みなさい。でも、私の治療を見ているのよ」
かなりの時間、互いに試行錯誤をしながらサルビアの訓練を続けていたものの、結果は芳しくはなかった。
その主な理由は感覚の違い。
デイジーに解呪の魔法を指導する際には、私の感覚とデイジーの感覚がたまたま似通っていたおかげか、時間はかかったものの、何とか習得してもらうことができた。
しかし、先ほどの解毒の魔法の感覚が大きく違ったように、私とサルビアの感覚には大きな隔たりがあるようだ。
「ごめんなさい。何かいい方法があればいいのだけれど……」
「そんな! 聖女様は一つも悪くありません! こんなに時間を割いて指導いただいているのに、できない私が悪いんです‼︎」
その場に座り込みながら、消耗した魔力を回復させるサルビアがそう言う。
私は首を横に振り、どうにかならないかと思案していた。
やはり一番重要なのは、感覚だ。
デイジーが解呪の魔法を覚えた時も、口頭でだが私が解呪の魔法を使う時の感覚を伝えたことがきっかけだった。
それまで何度やっても失敗していたデイジーだったが、感覚を伝えた途端、何か気づきがあったようで、数日間独自に訓練をしていた。
その後、再び解呪に挑戦し、完全に解呪するまではいかなかったものの、使う際に必要な感覚が掴めたと、喜んでいた。
悩みで気が疎かになっていた矢先、聞き覚えのある声同士の会話がふと耳に入った。
声のする方を見ると、ロベリアが負傷兵として運ばれてきたアイオラと話している。
「兄さん! また怪我をしたの?」
「あはは。そりゃあ、戦闘をしているんだから怪我はいつだってするさ。それに今回は前回みたいな酷いものじゃない。大丈夫だよ」
「そうよね……安心して! 兄さんや他の兵士さんがいくら傷ついたって、聖女様のいるこの部隊がたちまち綺麗さっぱり治しちゃうんだから!」
「そりゃあ頼もしいなぁ。ロベリアも頑張っているみたいだね。さぁさ、仕事中だろう? いつまでも油を売ってないで持ち場に戻るんだよ」
「残念でした! 今は休憩時間ですー。あ、でも他の人に邪魔になるから、そろそろいくわね。兄さんも無茶しないでね」
「ああ。今回の怪我はアンバー部隊長を庇って受けた傷でね。僕としては敬愛する部隊長を守れて、誇りに思っているんだけど、案の定、本人にこってり怒られたよ」
珍しく明るい雰囲気に私はついつい聴き入ってしまっていた。
そこで、あることを思い出す。
「ちょっと、一瞬だけ外すわね」
そう言って、私はアイオラの方へと向かい、声をかけた。
「久しぶりね。アイオラ。ロベリアはその後しっかりやってくれているわ。ところで、あなたに少しだけ教えて欲しいことがあるの」
「これは聖女様。あの節は本当にありがとうございました。おかげでこうしてあなたやロベリアの顔を見ることもできますし、未だに生きています」
「時間があまりないから単刀直入に言うわね。前に私に魔力の練り方を教えてくれたでしょう? あれは、どうやってやるの?」
「え? ああ、あの方法ですか……すいません。まさか聖女様だとはあの時は分からず、生意気を言ってしまって」
アイオラは一瞬驚いた顔をして、それから頭を下げた。
あの時は目が見えなかったし、そもそもアイオラが攻撃魔法用の魔力の練る場所を教えてくれたおかげで、彼を助けることができたのだから、感謝しかない。
「いいのよ。それで、あれは誰でもできるのかしら?」
「ええ。魔力をすでに練ることができる人なら誰でも。練った魔力を、繋いだ手を通して相手に送るんです。相手が力を抜いていれば、その魔力は最も通りやすい場所を通ってから、反対の手に流れます。昔、ロベリアと遊んでいる時に気づいたんですが……」
「ありがとう! 分かったわ。ちょっとやってみるわね。手を貸してくれるかしら?」
「え? ええ。でも、私はもう既に魔力の練り方を知っていますから、今さら……ああ、通すことができるかの確認ですね。それなら知っている相手にやってみた方が間違いが少ない」
そう言いながら、アイオラは私の差し出した両手を握り返した。
さっそく回復魔法を使うための魔力を練り、右手からアイオラの手に通すようイメージする。
すると、確かに手を通してアイオラの身体に私の魔力が流れていく。
よく考えれば、私自身も、魔力を右手から左手へとアイオラの頭の中を通したことがある。
あれは意識的に魔力の流れを制御して、まっすぐ手の間を流していたけれど、今回は送った後のことは、分からない。
少しの時間の差があってから、右手に送った魔力と同じものが、アイオラの手から私の左手へと流れ込んできた。
「どう? できているかしら?」
「え、ええ……できている、と思うんですが。何故か経路も、熱を帯びる場所も違うように思います。普通だとへその下辺りが暖かくなるんですが、今は胸の辺りが暖かくなりました」
「本当? それでいいの。成功よ。ありがとう!」
「え? そうなんですか? なんだか分かりませんが、お役に立てて良かったです。それでは、僕もいつまでもここで休んでいるわけにはいかないので失礼しますね。部隊長を心配させるといけませんから」
そう言うとアイオラは軍式の敬礼をしてから、治療場を後にした。
私は、すぐに戻り治療を再開する。
それを見ていたサルビアが不思議そうな顔を私に向け、質問を投げかけてきた。
「聖女様。あの人ってロベリアのお兄さんですよね? いきなり手を握りしめたりして、どうしたんですか? まさか、聖女様のいい人ですか⁉︎」
「何を馬鹿なこと言っているの。違うわよ。それはそうと、サルビア。魔力が回復したら、ちょっと試したいことがあるの」
不思議そうな顔のままのサルビアに向かって、私は笑みを送った。