戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
第36話【違和感】
「あ、ああ。そうだったね。すまない、すまない。ちょっと別の件と、勘違いをしていたようだ」
カルザーはそう言いながら、目線を私が示した元第二期訓練兵として配属されてきた女性の手元に注ぐ。
彼女が担当の負傷兵の怪我を回復魔法で治療したことを確認すると、他の衛生兵たちにも目を配り始めた。
一通り見た後に、カルザーはこちらを振り返り、いつも通りの笑みのまま口を開く。
「うん。どうやら上手くいっているみたいだね。安心したよ。こんな優秀な部下を持って、上官として鼻が高い。ところで、今休憩中の衛生兵たちもいるんだろう? その子たちにも会っておきたいな。何処にいるんだい?」
「非番の者は、ある程度行動の自由を許していますが、多くの者は休憩室にいるかと。案内します」
そう言って、カルザーの前を歩こうとした瞬間、カルザーに呼び止められた。
「ああ。いやいや。君も忙しい身だ。今でだって、十分案内してもらったんだし、残りはこっちで勝手にやるよ。構わないね? ああ、君きみ。休憩室とやらへ、僕を案内してくれ」
「は? ……はっ! かしこまりました‼︎」
カルザーは何故か私の案内を断り、近くにいた衛兵に声をかけ、案内するよう命令する。
なんの意図があってそんなとこをするのか分からないが、今の状況で無理に私が同行するのもおかしな話だ。
それに、確かにカルザーの言う通り、私も忙しい。
治療以外にも部隊長としてやらなくていけないこともあるため、もうこれ以上カルザーに構うことをしなくていいと言うのは、正直なところ助かった。
「それじゃあ、フローラ君。君の部隊のますますの活躍、期待しているよ。ああ、それと、君の机の資料は、申し訳ないけど、片付けておいてくれないか。僕は休憩室のみんなに激励を送ったら、そのまま帰ることにするよ」
「はい。分かりました。本日は、ありがとうございました」
指名された衛兵に連れられて、カルザーとその同行者たちは治療場から去っていく。
私は一度だけ息を吐き出し、気持ちを入れ替えて、従来の任務に戻ることにした。
☆
カルザーが訪れてから数日間。
私は何かはっきりとしたことは分からないが、奇妙な違和感を得ていた。
それがはっきりと数字となって出てきたのは、今日の夜の報告書に目を通した時だった。
「あら? ここ数日の各衛生兵の治療の割合に偏りがあるわね」
それは、誰がどのくらいの治療を行ったか、まとめた資料だった。
そんな細かいものは、上層部に送る必要はなく、あくまで部隊内の管理のために、日々付けることを義務付けているものだ。
「この子とこの子と……何人かが随分と減っている。逆に、その減った分を他の子たちが補っていたのね」
私が数日間持っていた違和感はおそらくこれだったのだろう。
思えば、これまでより、赤色や紫色の
リボンを付けた負傷兵を治療することが多かった気がする。
布なしが少なかったのかと聞かれれば、そんなことはなく、結果的に治療している人数が多くなっていたのだろう。
「どうしたのかしら……前までの報告書を見る限りは彼女たちも今よりもっと治療をこなせていたはずなのに……」
不思議に思った私は、デイジーとサルビアに何かおかしなことが起こっていないか、内密に調べるように指示を出すことを決めた。
呼び出した二人も、私と同じく違和感を抱いていたようで、各々に口を開く。
最初に話したのはデイジーだ。
「聖女様も思ってらっしゃんですね! 私も、最近妙に忙しいなぁって。それに他の兵の手が回らずに、そちらの応援にいく頻度も増えた気がしてました」
「私もです。多分、デイジーさんと私が手が回らなくなったせいで、部隊長にもそのしわ寄せがいったのではないかと……すいません」
サルビアが申し訳なさそうにしたので、私は首を横に振り、それを否定する。
「いいのよ。何もあなたの問題じゃないもの。でも、このままこの状態が続けば良くないことなのは間違いないわ。今はまだ多少の負担増で済んでいるけれど、彼女たちみたいなのがこれからどんどん増えてしまったら、いつか瓦解するわ。それまでに、原因を突き止めましょう」
「はい! 分かりました」
こうして、デイジーとサルビア、そして私も、何故一部の衛生兵たちの能率が下がってしまったのかを確認することにした。
しかし、その調査は思うように成果が得られなかった。
デイジーやサルビアが能率の下がった本人たちにそれとなく聞いてみたり、他の衛生兵を通じて何か変わったことがないか確認してみたものの、明確な原因は今のところみつかっていない。
それどころか、日に日に、以前に比べて能率を下げてしまった衛生兵が増えていく。
私は能率の下がってしまった衛生兵たちを、普段より多めに休憩を取らせたりするよう指示を出したが、それでも能率が元に戻ることはなかった。
「どうしてなの? 何かはっきりとした原因があるはずよ……一人や二人じゃないもの。こんなに……」
「聖女様!」
日々増えていく能率の下がった衛生兵たちの存在に頭を抱えていた矢先、部屋にデイジーが入ってきた。
何かこれ以上の問題でも発生したのだろうか。
「どうしたの? デイジー。何か問題?」
「いえ! 私、ふと気が付いたんですが。例のやる気がなくなってしまった、衛生兵たち、ある共通点があったんです!」
「デイジー。言い方は気を付けなさいね。やる気がないだなんて、彼女たちが聞いたら気を悪くするわよ。それで、その共通点って、なんなの?」
「はい! この前、カルザー長官がお見えになったと思うんですが、あの日です。あの日の非番の時間帯が同じだった者の能率が下がっています‼︎」
カルザーはそう言いながら、目線を私が示した元第二期訓練兵として配属されてきた女性の手元に注ぐ。
彼女が担当の負傷兵の怪我を回復魔法で治療したことを確認すると、他の衛生兵たちにも目を配り始めた。
一通り見た後に、カルザーはこちらを振り返り、いつも通りの笑みのまま口を開く。
「うん。どうやら上手くいっているみたいだね。安心したよ。こんな優秀な部下を持って、上官として鼻が高い。ところで、今休憩中の衛生兵たちもいるんだろう? その子たちにも会っておきたいな。何処にいるんだい?」
「非番の者は、ある程度行動の自由を許していますが、多くの者は休憩室にいるかと。案内します」
そう言って、カルザーの前を歩こうとした瞬間、カルザーに呼び止められた。
「ああ。いやいや。君も忙しい身だ。今でだって、十分案内してもらったんだし、残りはこっちで勝手にやるよ。構わないね? ああ、君きみ。休憩室とやらへ、僕を案内してくれ」
「は? ……はっ! かしこまりました‼︎」
カルザーは何故か私の案内を断り、近くにいた衛兵に声をかけ、案内するよう命令する。
なんの意図があってそんなとこをするのか分からないが、今の状況で無理に私が同行するのもおかしな話だ。
それに、確かにカルザーの言う通り、私も忙しい。
治療以外にも部隊長としてやらなくていけないこともあるため、もうこれ以上カルザーに構うことをしなくていいと言うのは、正直なところ助かった。
「それじゃあ、フローラ君。君の部隊のますますの活躍、期待しているよ。ああ、それと、君の机の資料は、申し訳ないけど、片付けておいてくれないか。僕は休憩室のみんなに激励を送ったら、そのまま帰ることにするよ」
「はい。分かりました。本日は、ありがとうございました」
指名された衛兵に連れられて、カルザーとその同行者たちは治療場から去っていく。
私は一度だけ息を吐き出し、気持ちを入れ替えて、従来の任務に戻ることにした。
☆
カルザーが訪れてから数日間。
私は何かはっきりとしたことは分からないが、奇妙な違和感を得ていた。
それがはっきりと数字となって出てきたのは、今日の夜の報告書に目を通した時だった。
「あら? ここ数日の各衛生兵の治療の割合に偏りがあるわね」
それは、誰がどのくらいの治療を行ったか、まとめた資料だった。
そんな細かいものは、上層部に送る必要はなく、あくまで部隊内の管理のために、日々付けることを義務付けているものだ。
「この子とこの子と……何人かが随分と減っている。逆に、その減った分を他の子たちが補っていたのね」
私が数日間持っていた違和感はおそらくこれだったのだろう。
思えば、これまでより、赤色や紫色の
リボンを付けた負傷兵を治療することが多かった気がする。
布なしが少なかったのかと聞かれれば、そんなことはなく、結果的に治療している人数が多くなっていたのだろう。
「どうしたのかしら……前までの報告書を見る限りは彼女たちも今よりもっと治療をこなせていたはずなのに……」
不思議に思った私は、デイジーとサルビアに何かおかしなことが起こっていないか、内密に調べるように指示を出すことを決めた。
呼び出した二人も、私と同じく違和感を抱いていたようで、各々に口を開く。
最初に話したのはデイジーだ。
「聖女様も思ってらっしゃんですね! 私も、最近妙に忙しいなぁって。それに他の兵の手が回らずに、そちらの応援にいく頻度も増えた気がしてました」
「私もです。多分、デイジーさんと私が手が回らなくなったせいで、部隊長にもそのしわ寄せがいったのではないかと……すいません」
サルビアが申し訳なさそうにしたので、私は首を横に振り、それを否定する。
「いいのよ。何もあなたの問題じゃないもの。でも、このままこの状態が続けば良くないことなのは間違いないわ。今はまだ多少の負担増で済んでいるけれど、彼女たちみたいなのがこれからどんどん増えてしまったら、いつか瓦解するわ。それまでに、原因を突き止めましょう」
「はい! 分かりました」
こうして、デイジーとサルビア、そして私も、何故一部の衛生兵たちの能率が下がってしまったのかを確認することにした。
しかし、その調査は思うように成果が得られなかった。
デイジーやサルビアが能率の下がった本人たちにそれとなく聞いてみたり、他の衛生兵を通じて何か変わったことがないか確認してみたものの、明確な原因は今のところみつかっていない。
それどころか、日に日に、以前に比べて能率を下げてしまった衛生兵が増えていく。
私は能率の下がってしまった衛生兵たちを、普段より多めに休憩を取らせたりするよう指示を出したが、それでも能率が元に戻ることはなかった。
「どうしてなの? 何かはっきりとした原因があるはずよ……一人や二人じゃないもの。こんなに……」
「聖女様!」
日々増えていく能率の下がった衛生兵たちの存在に頭を抱えていた矢先、部屋にデイジーが入ってきた。
何かこれ以上の問題でも発生したのだろうか。
「どうしたの? デイジー。何か問題?」
「いえ! 私、ふと気が付いたんですが。例のやる気がなくなってしまった、衛生兵たち、ある共通点があったんです!」
「デイジー。言い方は気を付けなさいね。やる気がないだなんて、彼女たちが聞いたら気を悪くするわよ。それで、その共通点って、なんなの?」
「はい! この前、カルザー長官がお見えになったと思うんですが、あの日です。あの日の非番の時間帯が同じだった者の能率が下がっています‼︎」