戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
第41話【同行】
魔法兵の放った光球が少し離れた場所にいる四足歩行の魔獣に炸裂する。
崩れ落ちる魔獣の横を駆け抜け、金属製の粗末な武器を持った魔獣が、前衛の攻撃兵に向かって横なぎに振るった。
「ぐぅ!」
鋭い魔獣の攻撃に反応が間に合わずに、攻撃を受けた兵士は血を吹き出しながら横へと体を流した。
おそらく骨と内蔵を損傷したのだろう。
兵士は苦悶の表情を抱えながら上段から下へと勢いに任せた一撃を振るう。
私は既に用意が終わった治癒の魔法を兵士にかけ、傷を癒す。
瞬間、驚いたような顔をしたまま放った兵士の一撃は、勢いを増し魔獣を絶命させる。
ひとまずの戦闘の終了に、私は胸を撫で下ろし息を吐く。
「ありがとう……本当に恐ろしいものね……魔獣というのは」
私は誰に話しかけるでもなく、そう呟く。
すると、後衛にいる私に向かって前衛の兵士が駆け寄って来た。
「ありがとう‼︎ 噂には聞いてたけど、衛生兵がすぐ後ろに控えているって安心感が段違いだね‼︎」
まだ若い兵士のようだ。
こんな若者が何人も戦場で命を失っているのだろう。
治療場でも正しく理解できない現場の肌の感覚を感じ、私はますます一人でも多くの命が救えるようこの身を捧げることを再度誓った。
それにしても、結果的にはカルザーに後押しされた形になってしまったが、衛生兵の同行は、私も考えていたことではあった。
いくら前線の陣営に治療場を設置したとしても、運ばれてくるまで生きているのは、むしろ運のいい方だといえる。
試合などではなく、殺し合いの戦争では、相手が傷つけば、トドメを刺しにいくのが至極当然の行為だろう。
傷を負えば負うほど戦闘の継続は難しくなる。
先ほども、私が治療を行わなければ、若い命が一つ散ってしまっていたかもしれない。
そう考えれば、現場ですぐに治療を行えるのは、救命という観点でいえば最良なのだ。
ただし、問題は同行する衛生兵の身の安全だ。
攻撃兵も、自分だけではなく、身体能力に劣る衛生兵を援護しながら戦わなければならない。
少なくとも、思いつきで実施して成功するような簡単なものではないだろう。
今だに私にキラキラとした視線を送る兵士に、私は静かな口調で伝える。
「ええ。でも慢心は余計な失敗を引き起こすわ。それに、今回は敵も少なく幸運なだけだったかもしれない。私たちの役目は本体が相手の拠点を制圧するまでに周囲の敵の殲滅でしょう? 休んでいるわけにもいかない。次へ進みましょう」
「ああ! それにしても衛生兵っていうのは凄いんだね‼︎ あんな怪我をたちどころに治しちゃうなんて。こんなことができるなら、各小隊に衛生兵を付ければいいのに」
興奮した様子でいう兵士の頭を、私の隣にいた魔法兵が拳で叩く。
こちらはアンバーほどではないが、それなりの年齢で、戦場での経験も目の前の若い兵士よりは豊富そうだ。
彼はこの小隊を指揮する小隊長で、名前はインディゴといった。
「痛い! ちょっと! 突然何するんですか⁉︎」
「うるせぇ! 戦闘中だってぇのに鼻の下伸ばしやがって。こんなことできるならだと? この人と同等かそれ以上の衛生兵なんて存在しねぇよ! そもそもこの聖女様は部隊長だぞ? 言葉遣い考えろ‼︎」
「え⁉︎」
インディゴの言葉に、その場にいた全員が頷く。
どうやら、私の立場を知らなかったのは、殴られた若い兵士だけのようだ。
そういえば、普段胸に付けている徽章は、気持ちばかりの防具に隠れて見えなくなっている。
若い兵士が気づかなくても仕方がないのかもしれない。
その他の兵士たちは、何度か見たことがある顔だ。
きっと、一度は第二衛生兵部隊の治療場に負傷兵として担ぎ込まれたのだろう。
「部隊長⁉︎ そんな偉い人が、現場に出て来てるんですか⁉︎」
「それが、そうなってるから、俺たちはみんな驚いてるんじゃねぇか。いいか? 絶対に、聖女様の身は守れ。自分の命に変えてもだ。それほどに、聖女様の命には価値がある」
インディゴの言葉に、再び他の兵たちも頷く。
それを聞いた私は、ついつい口を挟んでしまった。
「いいえ。命に価値の違いはないわ。一人一人、大切な命なのよ。命を投げ打ってまで助けようだなんて思わないでちょうだい」
「しかし……俺たちは傷ついても聖女様が治してくれますが、聖女様が瀕死になってしまったら、誰が治すんですか?」
そう問いかけられ、私は一瞬考え込んでしまった。
というのも、自分自身の回復魔法は、自分を治癒できないという問題があったからだ。
この問題については、少なくても私がこれまでに読んだ多くの文献に同様に記されていたから、間違いないのだろう。
実際に歴代の聖女様の中には、ご自身の怪我を治せずにいたという記録も残っていた。
また、そもそも回復魔法は、男性に比べて女性には効きづらいという事実もある。
これについては個人差があるようだが、少なくとも私は今までに回復魔法を受ける機会に恵まれなかったため、分からない。
私は、頼るべきところは頼った方が、それぞれの領分に専念した方が良いと理解し、インディゴに笑顔で答える。
「確かにそれもそうね。ただ、生きていれば救えるけれど、死んでしまっては無理なの。だから……死なないでちょうだい」
私の言葉に、インディゴや他の兵士、そして先ほどの若い兵士全員が、軍式の敬礼で応えてくれた。
崩れ落ちる魔獣の横を駆け抜け、金属製の粗末な武器を持った魔獣が、前衛の攻撃兵に向かって横なぎに振るった。
「ぐぅ!」
鋭い魔獣の攻撃に反応が間に合わずに、攻撃を受けた兵士は血を吹き出しながら横へと体を流した。
おそらく骨と内蔵を損傷したのだろう。
兵士は苦悶の表情を抱えながら上段から下へと勢いに任せた一撃を振るう。
私は既に用意が終わった治癒の魔法を兵士にかけ、傷を癒す。
瞬間、驚いたような顔をしたまま放った兵士の一撃は、勢いを増し魔獣を絶命させる。
ひとまずの戦闘の終了に、私は胸を撫で下ろし息を吐く。
「ありがとう……本当に恐ろしいものね……魔獣というのは」
私は誰に話しかけるでもなく、そう呟く。
すると、後衛にいる私に向かって前衛の兵士が駆け寄って来た。
「ありがとう‼︎ 噂には聞いてたけど、衛生兵がすぐ後ろに控えているって安心感が段違いだね‼︎」
まだ若い兵士のようだ。
こんな若者が何人も戦場で命を失っているのだろう。
治療場でも正しく理解できない現場の肌の感覚を感じ、私はますます一人でも多くの命が救えるようこの身を捧げることを再度誓った。
それにしても、結果的にはカルザーに後押しされた形になってしまったが、衛生兵の同行は、私も考えていたことではあった。
いくら前線の陣営に治療場を設置したとしても、運ばれてくるまで生きているのは、むしろ運のいい方だといえる。
試合などではなく、殺し合いの戦争では、相手が傷つけば、トドメを刺しにいくのが至極当然の行為だろう。
傷を負えば負うほど戦闘の継続は難しくなる。
先ほども、私が治療を行わなければ、若い命が一つ散ってしまっていたかもしれない。
そう考えれば、現場ですぐに治療を行えるのは、救命という観点でいえば最良なのだ。
ただし、問題は同行する衛生兵の身の安全だ。
攻撃兵も、自分だけではなく、身体能力に劣る衛生兵を援護しながら戦わなければならない。
少なくとも、思いつきで実施して成功するような簡単なものではないだろう。
今だに私にキラキラとした視線を送る兵士に、私は静かな口調で伝える。
「ええ。でも慢心は余計な失敗を引き起こすわ。それに、今回は敵も少なく幸運なだけだったかもしれない。私たちの役目は本体が相手の拠点を制圧するまでに周囲の敵の殲滅でしょう? 休んでいるわけにもいかない。次へ進みましょう」
「ああ! それにしても衛生兵っていうのは凄いんだね‼︎ あんな怪我をたちどころに治しちゃうなんて。こんなことができるなら、各小隊に衛生兵を付ければいいのに」
興奮した様子でいう兵士の頭を、私の隣にいた魔法兵が拳で叩く。
こちらはアンバーほどではないが、それなりの年齢で、戦場での経験も目の前の若い兵士よりは豊富そうだ。
彼はこの小隊を指揮する小隊長で、名前はインディゴといった。
「痛い! ちょっと! 突然何するんですか⁉︎」
「うるせぇ! 戦闘中だってぇのに鼻の下伸ばしやがって。こんなことできるならだと? この人と同等かそれ以上の衛生兵なんて存在しねぇよ! そもそもこの聖女様は部隊長だぞ? 言葉遣い考えろ‼︎」
「え⁉︎」
インディゴの言葉に、その場にいた全員が頷く。
どうやら、私の立場を知らなかったのは、殴られた若い兵士だけのようだ。
そういえば、普段胸に付けている徽章は、気持ちばかりの防具に隠れて見えなくなっている。
若い兵士が気づかなくても仕方がないのかもしれない。
その他の兵士たちは、何度か見たことがある顔だ。
きっと、一度は第二衛生兵部隊の治療場に負傷兵として担ぎ込まれたのだろう。
「部隊長⁉︎ そんな偉い人が、現場に出て来てるんですか⁉︎」
「それが、そうなってるから、俺たちはみんな驚いてるんじゃねぇか。いいか? 絶対に、聖女様の身は守れ。自分の命に変えてもだ。それほどに、聖女様の命には価値がある」
インディゴの言葉に、再び他の兵たちも頷く。
それを聞いた私は、ついつい口を挟んでしまった。
「いいえ。命に価値の違いはないわ。一人一人、大切な命なのよ。命を投げ打ってまで助けようだなんて思わないでちょうだい」
「しかし……俺たちは傷ついても聖女様が治してくれますが、聖女様が瀕死になってしまったら、誰が治すんですか?」
そう問いかけられ、私は一瞬考え込んでしまった。
というのも、自分自身の回復魔法は、自分を治癒できないという問題があったからだ。
この問題については、少なくても私がこれまでに読んだ多くの文献に同様に記されていたから、間違いないのだろう。
実際に歴代の聖女様の中には、ご自身の怪我を治せずにいたという記録も残っていた。
また、そもそも回復魔法は、男性に比べて女性には効きづらいという事実もある。
これについては個人差があるようだが、少なくとも私は今までに回復魔法を受ける機会に恵まれなかったため、分からない。
私は、頼るべきところは頼った方が、それぞれの領分に専念した方が良いと理解し、インディゴに笑顔で答える。
「確かにそれもそうね。ただ、生きていれば救えるけれど、死んでしまっては無理なの。だから……死なないでちょうだい」
私の言葉に、インディゴや他の兵士、そして先ほどの若い兵士全員が、軍式の敬礼で応えてくれた。