戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
第9話【ベリルの手紙】
「どうするんだい? 今から本営に向かうなら、許可をしよう。君なら治せるのだろう?」
アンバーはそんなことを言い出した。
しかし、先ほどの話が本当だとしても、私の出る幕などないだろう。
「いいえ。マリーゴールドが一緒なのですよね。ルチル王子が承認した聖女がその場にいるというのに、他の者に治療させるとは思えません」
「王族の専属の『聖女様』、か。まぁ、確かにそうだね。しかし、僕はよくその『聖女様』を知らないけれど、君と同じくらい凄いのかい?」
聞かれて私はマリーゴールドのことを思い出す。
彼女は要領の良い子だった。もちろん悪い意味で。
彼女は努力という言葉が嫌いだった。
そんな彼女が上位の呪いを解くほどの解呪の魔法を使えるとは到底思えない。
私は一度だけ首を横に振る。
それを見たアンバーは深いため息をつく。
「まったく。ルチル王子には困ったもんだね。知ってるかい? 現国王からルチル王子に指揮権が移ってから、前線は徐々に後退してるのさ。一部を除いてね。ほとんど、彼の指揮があまりにも的を射ていないせいだって噂だよ」
「そうなんですね。ちなみに、前線を押し進めてる、その一部というのは?」
「気になるかい? 魔王討伐軍一の精鋭部隊、攻撃第一部隊さ。部隊長は僕の同期だけど、まぁ戦うために生まれたようなやつだね」
アンバーは旧友を思い懐かしんだのか、少し微笑む。
「彼女がさ、ルチル王子の言う無理難題を全て成し遂げちゃうから。困るんだよね。彼女の部隊だけ規格外なんだから。他の部隊に同じことができるはずないんだ」
「彼女? 第一部隊の部隊長は女性なんですか?」
「知らなかった? 有名なんだけどな。ダリアって言うんだ。ダリア・パルフェ。名前の通り、完璧ってやつだ」
「知りませんでした。覚えておきます」
その後、私はアンバーと二言三言話し、司令室を後にした。
治療場には戻らず、私は自室へと向かっていた。
自室に戻ると、飾ってあるリラの花が目に付く。
今も濃い紫の花を咲かせている。
私は自分の荷物から手紙に必要な一式を取り出すと、ベリル王子に向けて手紙を書き始めた。
内容はルチル王子の呪いについてだ。
アンバーの使い魔の件は伏せておくとして、この手紙はベリル王子以外に渡ることがないはずだから、ひとまずは呪いについて触れても良いだろう。
私は、ルチル王子がかかった呪いを魔石の力を借りたものの解けたことを書き、必要があれば治癒をすることを書き留めた。
恐らくルチル王子に伝えても一蹴されてお終いだろうが、ベリル王子はその点思慮深い。
私に対してどう言う感情を持っているかは知らないけれど、ルチル王子の呪いを解けるのが私だけだと分かれば、きっと申し出を断りはしないだろう。
正直なところ、私自身はルチル王子にいい印象は持っていない。
傲慢で、短絡的で、その上自信家。
下手に権力があるため、誰もとがめるものがいなかったのが原因でもあるかもしれないけれど、恐らく持って生まれたものだろう。
しかし、性格の良し悪しと、助けるか否かは関係がない。
命に貴賤はないが、身分が高いから助けなくて良いと言うわけでもないのだ。
助けられるものなら助けたい。
私のわがままかもしれないけれど、助けられるのに見て見ぬ振りをすることは出来なかった。
ベリル王子に定期的に教えるよう言われているリラの花の色と、ルチル王子の呪いについて書き終わると、私は専用の封をして、兵士に届けてもらうよう願った。
今までベリル王子から返信が来たのは一度だけ。
いつ来るかも分からない返信を、私は根気よく待つつもりだった。
しかし、返信は思いの外早く届いた。
私は急いでその返信の封を切り、中身を確認する。
するとこんなことが書かれていた。
『フローラへ。
手紙ありがとう。兄の容態についてすでに知っていることに驚いている。書いていないということは、聞いても理由を教えてくれはしないだろうから聞かないことにする。
俺は君に治してもらうよう兄にすぐに申し出たが、断られてしまった――』
こんな出だしで書かれていた手紙の中身を見て私は訝しがる。
何故なら、続く言葉で、ルチル王子の呪いはマリーゴールドによって解かれたと書いてあったからだ。
ベリル王子の手紙の内容を要約するとこういうことだった。
呪いを受けた時、マリーゴールドは十分な魔石がその場にあったにも関わらず、解呪出来なかった。
その間、ルチル王子は痛みなどから失神と覚醒を繰り返し、覚醒している間は発狂したように叫び続けていたらしい。
見る者にさえ恐怖を与える様相だったらしい。
その後、治癒に専念するためとマリーゴールドはルチル王子を隔離し、必要最低限の小間使い以外を近づかせなかったらしい。
しかし、治癒は難航したようで、毎日その一角から、ルチル王子の叫び声が途切れ途切れに聞こえてくるのだとか。
そこで、私の手紙を受け取ったベリル王子が、私にルチル王子の解呪をさせようと申し出た。
しかしそれが断られた。
断ったのはルチル王子ではなく、マリーゴールドだという。
そしてその後直ぐに、ルチル王子の解呪に成功したとマリーゴールドが言い出したというのだ。
不思議に思ったベリル王子は、面会を申し出たがこれも断られたのだとか。
確かに離れても聞こえてくるルチル王子の絶叫はその日から聞こえなくなったため、解呪が成功したのだろうという話になっているという。
「どうも釈然としないけれど、私がどうこうできる話でもないわね。助かったのなら良かったと思うべきね」
そう思いながら、私はベリル王子に返信と、リラの花の色を書いた手紙を再度送った。
リラの花は以前よりも更に濃い紫色の花を咲かせていた。
アンバーはそんなことを言い出した。
しかし、先ほどの話が本当だとしても、私の出る幕などないだろう。
「いいえ。マリーゴールドが一緒なのですよね。ルチル王子が承認した聖女がその場にいるというのに、他の者に治療させるとは思えません」
「王族の専属の『聖女様』、か。まぁ、確かにそうだね。しかし、僕はよくその『聖女様』を知らないけれど、君と同じくらい凄いのかい?」
聞かれて私はマリーゴールドのことを思い出す。
彼女は要領の良い子だった。もちろん悪い意味で。
彼女は努力という言葉が嫌いだった。
そんな彼女が上位の呪いを解くほどの解呪の魔法を使えるとは到底思えない。
私は一度だけ首を横に振る。
それを見たアンバーは深いため息をつく。
「まったく。ルチル王子には困ったもんだね。知ってるかい? 現国王からルチル王子に指揮権が移ってから、前線は徐々に後退してるのさ。一部を除いてね。ほとんど、彼の指揮があまりにも的を射ていないせいだって噂だよ」
「そうなんですね。ちなみに、前線を押し進めてる、その一部というのは?」
「気になるかい? 魔王討伐軍一の精鋭部隊、攻撃第一部隊さ。部隊長は僕の同期だけど、まぁ戦うために生まれたようなやつだね」
アンバーは旧友を思い懐かしんだのか、少し微笑む。
「彼女がさ、ルチル王子の言う無理難題を全て成し遂げちゃうから。困るんだよね。彼女の部隊だけ規格外なんだから。他の部隊に同じことができるはずないんだ」
「彼女? 第一部隊の部隊長は女性なんですか?」
「知らなかった? 有名なんだけどな。ダリアって言うんだ。ダリア・パルフェ。名前の通り、完璧ってやつだ」
「知りませんでした。覚えておきます」
その後、私はアンバーと二言三言話し、司令室を後にした。
治療場には戻らず、私は自室へと向かっていた。
自室に戻ると、飾ってあるリラの花が目に付く。
今も濃い紫の花を咲かせている。
私は自分の荷物から手紙に必要な一式を取り出すと、ベリル王子に向けて手紙を書き始めた。
内容はルチル王子の呪いについてだ。
アンバーの使い魔の件は伏せておくとして、この手紙はベリル王子以外に渡ることがないはずだから、ひとまずは呪いについて触れても良いだろう。
私は、ルチル王子がかかった呪いを魔石の力を借りたものの解けたことを書き、必要があれば治癒をすることを書き留めた。
恐らくルチル王子に伝えても一蹴されてお終いだろうが、ベリル王子はその点思慮深い。
私に対してどう言う感情を持っているかは知らないけれど、ルチル王子の呪いを解けるのが私だけだと分かれば、きっと申し出を断りはしないだろう。
正直なところ、私自身はルチル王子にいい印象は持っていない。
傲慢で、短絡的で、その上自信家。
下手に権力があるため、誰もとがめるものがいなかったのが原因でもあるかもしれないけれど、恐らく持って生まれたものだろう。
しかし、性格の良し悪しと、助けるか否かは関係がない。
命に貴賤はないが、身分が高いから助けなくて良いと言うわけでもないのだ。
助けられるものなら助けたい。
私のわがままかもしれないけれど、助けられるのに見て見ぬ振りをすることは出来なかった。
ベリル王子に定期的に教えるよう言われているリラの花の色と、ルチル王子の呪いについて書き終わると、私は専用の封をして、兵士に届けてもらうよう願った。
今までベリル王子から返信が来たのは一度だけ。
いつ来るかも分からない返信を、私は根気よく待つつもりだった。
しかし、返信は思いの外早く届いた。
私は急いでその返信の封を切り、中身を確認する。
するとこんなことが書かれていた。
『フローラへ。
手紙ありがとう。兄の容態についてすでに知っていることに驚いている。書いていないということは、聞いても理由を教えてくれはしないだろうから聞かないことにする。
俺は君に治してもらうよう兄にすぐに申し出たが、断られてしまった――』
こんな出だしで書かれていた手紙の中身を見て私は訝しがる。
何故なら、続く言葉で、ルチル王子の呪いはマリーゴールドによって解かれたと書いてあったからだ。
ベリル王子の手紙の内容を要約するとこういうことだった。
呪いを受けた時、マリーゴールドは十分な魔石がその場にあったにも関わらず、解呪出来なかった。
その間、ルチル王子は痛みなどから失神と覚醒を繰り返し、覚醒している間は発狂したように叫び続けていたらしい。
見る者にさえ恐怖を与える様相だったらしい。
その後、治癒に専念するためとマリーゴールドはルチル王子を隔離し、必要最低限の小間使い以外を近づかせなかったらしい。
しかし、治癒は難航したようで、毎日その一角から、ルチル王子の叫び声が途切れ途切れに聞こえてくるのだとか。
そこで、私の手紙を受け取ったベリル王子が、私にルチル王子の解呪をさせようと申し出た。
しかしそれが断られた。
断ったのはルチル王子ではなく、マリーゴールドだという。
そしてその後直ぐに、ルチル王子の解呪に成功したとマリーゴールドが言い出したというのだ。
不思議に思ったベリル王子は、面会を申し出たがこれも断られたのだとか。
確かに離れても聞こえてくるルチル王子の絶叫はその日から聞こえなくなったため、解呪が成功したのだろうという話になっているという。
「どうも釈然としないけれど、私がどうこうできる話でもないわね。助かったのなら良かったと思うべきね」
そう思いながら、私はベリル王子に返信と、リラの花の色を書いた手紙を再度送った。
リラの花は以前よりも更に濃い紫色の花を咲かせていた。