グリーンピアト物語~命を紡ぎ愛を紡ぐ奇跡~
「冗談なんか言っていません、私は本気です! 」
「もうい加減目を覚ましな! アンタは一国の国王様だよ。私みたいな奴に…」
「貴女は今のままで最高に、価値がある人です。そんな言い方は、止めて下さい。もういいのです、貴女は自分の幸せを考えて」
自分の幸せと言われると、セシレーヌはズキンと胸が痛んた。
「セシレーヌさん。ずっと、ご自分の気持ちに蓋をして我慢して来たのですよね? 火傷のハンデを一人で背負って、周りの人達を遠ざけて来たのは。一緒にいると、その人達も非難される。そう思っていたから、関わらないようにしていた。そんな貴女の優しい気持ちに、私は気づきました」
「何言ってるの…そんな事…」
「貴女に初めてお会いした時、とても悲しい目をされていたのでどうしてなのか。ずっと、貴女の魂にお聞きしていました。なかなか答えてはくれませんでしたが、貴女の傍でずっと見守ってくれている、貴女のご両親が答えてくれました。小さな頃に、火災に巻き込まれて貴女の父君は亡くなられ。母君は火傷で左手が不自由になり、貴女は助けられても顔に大やけどを負ってしまい、ずっとその事で非難されていると…」
何この人…何でそこまで分かるの? 死者と話ができると言うの?
パリン!
テーブルの上に置いてあったコップが小さく割れた。
それを見たセシレーヌはギュッと拳を握りしめた。
「そうですか。貴女は、黒魔法が使えるのですね? だから、いつも必死に感情を押さえているのですか」
割れたコップを見て、ジュニアールは小さく笑った。
「亡くなった私の妻も、魔族の一族でした。ちょっと感情が高ぶってしまうと、物が壊れたり、刃が飛んで来たりとありましたが。それも全て、自分を守る為の事だったのですから。何も悪い事ではありません」
ダメ…絶対に…私は、この人に近づく事はできない。
大切な人の命を奪ったのだから。
「私はこれでいい…結婚なんてしないから…」
結婚なんてしない…そう言ったセシレーヌの言葉が、とても悲しく聞こえたジュニアールは胸がズキンと痛んだ。
「私は、貴女が承諾してくれるまで何度でもプロポーズします! 」
「アンタと私じゃ不釣り合いじゃん! 私は、両親もいないしお金だってない。その日をやっと暮らしているだけ…。私なんかより、もっといい女性は沢山いる! 」
「いませんよ! 貴女以上の女性なんて。どんな女性の事を言われるのですか? 」
「だから…もっと上品で…地位も名誉もあって…」
「地位や名誉があっても、そこに心からの愛が無ければ私は嫌です。貴女が言われる通り、言い寄って来る女性はいますよ。でも、どなたにも心が動きません。皆さん、私が国王である事だけしか見ていませんから。でも貴女は違う。私を一人の人間として、ちゃんと見てくれる人ですから」
そんなに想ってくれるなんて…。
グッと涙が溢れそうになり、セシレーヌはこらえた。
「…もう…手術も終わった。アンタと私は、何も関係ないから。じゃあね! 」
そのままセシレーヌは病室を出て行った。
廊下を歩いて来たセシレーヌは目頭を押さえていた。
「セシレーヌ? どうかしたのか? 」
前方から歩いて来たクラウドルが声をかけて来た。
「いえ…別に何も…」
シレっと答えたセシレーヌを見て、クラウドルは驚いて目を丸くした。
「セシレーヌ、顔の火傷の跡が消えているぞ。…いったいどうしたんだ? 」
「あ…あの…」
セシレーヌが口ごもっていると…。
「セシレーヌ先生、待って下さい! 」
足早にジュニアールが追いかけて来た。