グリーンピアト物語~命を紡ぎ愛を紡ぐ奇跡~
さよならを選ぶ時
夜になり。
セシレーヌは勤務を終えて病院から出て来た。
「おや、セシレーヌ先生。今お帰りですか? 」
まるで待ち伏せしていたかのように現れたトワイヤルに、セシレーヌは怪訝そうな目を向けた。
「奇遇ですね。私も今から、帰るところです。一緒に帰りませんか? 」
「いえ…結構です」
シレっと答えて先に行こうとしたセシレーヌを、グイッと腕を掴んでトワイヤルが引き止めた。
なんなの?
ムッとした目を向けたセシレーヌに、トワイヤルは余裕な笑みを浮かべた。
「そんなに毛嫌いしないで下さい。僕、先生の事はずっと前から気になっていましたから」
はぁ?
何を言っているのだ? と、セシレーヌは警戒した眼差しでトワイヤルを見ていた。
「先生が研修医でこの病院に来たときから、ずっと見ていましたよ。痛々しい姿も見ていました。そんな時からずっと、僕は先生の事が好きなんです」
好き? それって…
「ねぇ、先生。僕と一緒に、この病院を手に入れませんか? 」
「何を言っているのですか? そんな話、興味ありませんので失礼します」
トワイヤルを振り切って歩き出したセシレーヌを、グイッと捕まえて、ニヤッと笑ったトワイヤル。
「逃げないで下さいよ、本気なのですから」
不敵な笑みを浮かべてトワイヤルは、セシレーヌに顔を近づけて来た。
なに? この凍てつくような感覚…。
この人、何か強い恨みでも抱いているような…。
「セシレーヌ先生。僕は、貴女を最高に幸せにできる男です。貴女を傷つける者がいれば、僕が容赦なく抹消しますのでご安心下さい」
「何を言っているのですか? そんな事、望んでいません」
「今まで貴女の事を傷つけて来た人間を、僕は絶対に許しませんから! この病院の医師や看護師達を全員…許しませんから…」
怖いくらいの憎悪を感じる…。
この人は一体…。
「おやおや、いけませんね。女性に対して、そんな誘い方をしては」
声がしてハッとなり、トワイヤルが振り向くと、そこにはジュニアールがいた。
セシレーヌは反射的に顔を背けた。
「国王様…。如何なさいましたか? このような場所へ来られるとは」
「いえ、娘が入院しているので今日は来ていたのです。少し、荷物を取りに戻るところでしたが。何だか言い争っていらっしゃるようでしたので、来てみたのですが」
「言い争ってなんかいませんので、ご安心下さい。同僚同士の話ですので、国王様がご心配されるよな事はございませんので」
「そうですか? でも、なんだかセシレーヌ先生の顔色が良くありませんので心配でして」
チラッとセシレーヌは、トワイヤルとジュニアールを見てサッとその場から走り去った。
「あ! セシレーヌ先生! 」
走り去るセシレーヌを見てトワイヤルは追いかけて行った。
ジュニアールは冷静な目をしてその姿を見て、そのままその場から立ち去って行った。