グリーンピアト物語~命を紡ぎ愛を紡ぐ奇跡~

「国王様が謝っていらっしゃるなんて」
「よほど大切な人なんだね…」
「先生って呼ばれているけど」
「誰なんだろう? 」

 周りがざわめいてる声を耳にしたセシリアは、ハッと我に返った。

「国王様、おやめ下さい。私は…何も傷ついてなどおりません。どうか、頭を上げて下さい」
「いいえ、お許し頂けるまでは決して頭を上げる事は致しません。…心から愛している人を、こんなに深く傷つけてしまうとは。私は国王である前に、一人に人間としても失格です」

「そんな事ありません。…私は、何も怒ってもいません。…大変だったのは、国王様の方だと思いますので…」
「…それでは、戻って来てくれますか? 私の下に…」
「そんな…。私は、国王様とは身分も違いますので…」

 そんなこと言われても…。
 困った目をしたままセシリアは俯いた。

「戻ってあげてよ、国王様の所に」
 乗船客の一人が言い出した。
「そうだよ。ずっと国王様は、お一人で国を支えて来たんだよ」
「そんな国王様が、やっと巡り会えた人だよ」
「船を止めてまで、貴女を迎えに来たんじゃない。何も迷う事はないわ」
「そうそう、身分なんて愛し合う事には関係ないって」
「メイシス様だって平民だったんだよ」
「貴女はとっても素敵な人だもの。国王様が好きになる気持ち、よく分かるわ」
「ああ、すげぇ美人だからな」

 乗船客の励ましの声が響いて来て、セシリアは胸がキュンとなった。

「セシリア。もういいじゃないか、何もかも一人で背負う事はない。誰かと支え合って生きて行くのが、人間なんだから。自分の気持ちに素直になればいい」

 素直に…なっていいの? 

 迷う気持ちの中、セシリアはそっとジュニアールに手を差し出した。

 ゆっくりと顔を上げたジュニアールは、差し出されたセシリアの手を見ると目を潤ませていた。

「許しを請うのはきっと、私の方です…」

 そっとセシリアの手をとって、ジュニアールは立ち上がった。

「それでは、お互いを許しましょう。そして、過去は終わらせて下さい。この先の未来を、私と一緒に歩いて下さい。私の命がある限り、幸せにしますから」
「…はい…」

 小さく返事をしたセシリア。

 見守ていた乗船客から大きな拍手が響いて来た。

 もう迷う事はないんだ…
 もしかして、この子達が引き止めてくれたのだろうか?
 セシリアはお腹に手を当てそう思った。
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