グリーンピアト物語~命を紡ぎ愛を紡ぐ奇跡~
歩いて来たセシレーヌは、ジュニアールの病室へとやって来た。
ちょっと緊張したような面持ちでドアをノックしたセシレーヌは、小さく一息ついた。
どうぞと返事がないまま、静かにドアが開いた。
「どうぞ、お待ちしておりましたよセシレーヌ先生」
愛しそうな目をしてジュニアールはセシレーヌを見つめた。
「どうぞ、入って下さい」
病室の中へ招かれたセシレーヌは、緊張している顔を更に強張らせていた。
「先生、明日は宜しくお願いしますね」
いつものように笑顔で話しかけてくるジュニアールに、セシレーヌは少し呼吸を整えた口を開いた。
「あのさ…。やっぱり、明日の手術は院長に任せた方がいいと思うから…」
シレっとしているセシレーヌだが、語尾が震えていた。
「どうしたのですか? 不安になりましたか? 」
「そうじゃないけど…やっぱり、私なんかじゃだめだと思うから…」
「私は先生を信じています。お城に来た時も言いましたが、先生でなければ手術は受けません」
ギュッと右手を握りしめたセシレーヌ…。
「あんた、正気なのかよ! 」
口元を引き締めたセシレーヌは、キッとジュニアールを見上げた。
その目に怯むことなく、ジュニアールは穏やかな表情のままセシレーヌを見ていた。
「自分の立場、分かっているのか? アンタは一国の国王様だよ? アンタが死んでしまったら、国民みんなが悲しむんだよ! それに…まだ小さな子供だっているんだろう? …それなのに…」
ギュッとまた右手を握りしめたセシレーヌ。
その手は微かに震えているように見えた。
ピリッ…。
テーブルの上に置かれているガラスのコップに、少しながらの亀裂が入った。
その亀裂を見たジュニアールは、セシレーヌがかなり内心では動揺しているのを感じ取った。
「やはり、先生はとっても優しい人ですね」
そう言いながら、ジュニアールはそっとセシレーヌの右手をとった。
「何も心配する事はありませんよ。貴女、今まで沢山の人をこの手で助けて来た人です。今こうして、貴女の手を握っているととても安心できます。この手から見える私の未来は、とても明るい未来が見えますよ。誰も悲しんでなんていません。だから安心して下さい。私が元気になる姿だけを、見ていて下さい。大丈夫ですから」
震えていた右手から今まで感じたことがない、とても穏やかなぬくもりが伝わって来てセシレーヌは内心驚いていた。
その温もりから本当に大丈夫だと、そう思えるエネルギーが胸の奥へっ入って来るのを感じた。
(大丈夫、手術は成功するわ。自分を信じて)
胸の奥から聞こえてきた声…。
その声を聞くと、セシレーヌは辛くなる…。
だが、この声の主が一番望んでいる事なのだから…やるしかない…。
「死んでも恨むんじゃないよ! アンタが選んだことなんだから! 」
憎まれ口をたたくわりには、セシレーヌは悲しげな目をしていた。
「貴女を恨む気など全くありません。ですが、1つお願いがあります」
「お願い? 」
「はい。手術が成功したら、私の願いを叶えてもらえますか? 」
「アンタの願い? 」
「はい。貴女にしか、叶えることができませんから」
私にしか叶えられない? どうゆう事?
不愛想の表情のまま、セシレーヌはじっとジュニアールを見ていた。
ジュニアールは満面笑みでじっとセシレーヌを見ていた。
「分かったよ。私にできる事なら、いいよ」
よく分からないままセシレーヌは答えた。
「有難うございます。楽しみにしていますね」
まるで子供の様に喜びいっぱいの笑顔で答えたジュニアールを、セシレーヌはよく分からないまま見ていた。
本当は手術を断るつもりでやってきたセシレーヌだったが、すっかりジュニアールのペースに巻かれてしまい断ることができないどころか、逆に励まされてしまった。
命がかかっている手術だと言うのに、なぜジュニアールはあんなにも穏やかな表情のままで信じているなんて言えるのだろうか?
無事に助かったら叶えて欲しい事って何だろう?
とにかくやるしかないんだ!
セシレーヌは覚悟を決めた。