他の誰かのあなた
夫とはお見合いで結婚した。
24歳の時だった。
特に何の目標もないままに大学を卒業し、小さな会社の事務員になった。
周りも、たいていそんな感じだ。
だけど、楽しくはなかった。
友人もいたし、付き合ってる人もいた。
なのに、私の心は少しも満たされることがなかった。
そんな時、親戚から見合いの話が舞い込んだ。
ふと、結婚も良いかなという気持ちに傾いた。
多分、満たされない毎日だったからだろう。
結婚で何かが変わると思ったのかもしれない。

柴田の第一印象は、優しそうな人、だった。
特にかっこいい訳でもないが、不細工でもない。
人が良さそうだと思った。



実際、会ってみたら、写真の印象そのままだった。
この人と一緒になれば、穏やかに暮らせると思った。
刺激を求めていた筈なのに、おかしなものだ。
優しそうなだけの人なのに、柴田にはなぜだか惹かれるものがあった。



「結婚して下さい。」



私の気持ちは決まった。
たった一ヶ月で、私からプロポーズした。
早過ぎないかと親は少し心配したけれど、私には不安等少しもなかった。



それから程なくして、私はジューンブライドとなった。
伝説なんて信じてはいない。
たまたま、6月になっただけのことだった。
それ程親しくない人まで呼んで、けっこう盛大な式を挙げた。
柴田の実家はわりと裕福だったのだ。
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