他の誰かのあなた
柴田の実家がお金持ちだということを知ったのは、結婚を決めた後のことだった。
つまり、お金に目が眩んだわけではない。
だけど、柴田は一流の商社に勤めていたし、釣書にあった彼の経歴は優秀なものばかりだったから、お金に苦労はしないだろうとは感じていた。
ただ、思ったよりも状況は良かった。
すでに、広くて明るい新居までが準備されていた。



結婚後、働くかどうかは、私の意思に任せると言われた。
誰にでも出来る仕事をしていたせいか、あまり働きたいとは思わなかったから、私は専業主婦の道を選んだ。
しかし、家事が得意なわけではない。
特に料理は酷いものだった。
まともなものが作れないから、毎晩、冷凍食品かレトルトか、お惣菜。
それでも、彼は少しも怒ることはなかった。
罪悪感から、料理学校に行きたいと言ってみたら、すんなり快諾された。
暇とお金はあるのだから、私はいくつかの習い事をするようになった。
料理学校で習った料理を出したら、恥ずかしくなるほど褒められた。



彼は本当に優しい。
穏やかな性格だし、喧嘩をする事など一度もなかった。
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