他の誰かのあなた
「由希が羨ましいよ。
玉の輿に乗ったんだから。」

友達にはそんな風に言われた。
確かに、お金には不自由してないし、家も広い。
でも、私にはピンと来てなかった。
私は、特にお金には強い関心がなかったからかもしれない。



確かに、幸せなんだろうなとは思えた。
あくせく働くこともないし、かといって家事に追われてるというわけでもない。
好きな習い事をして、料理を作りたくなければ、冷凍食品でも外食でもなんでも良い。
柴田はそんなことには怒ったりしない。
本当に良い人だと思う。
真面目だし、穏やかだし、冷静だし…それに、体の相性も良かった。
夫として、文句の付けようがない人だ。



当然、私は柴田を愛していた。
熱く燃えたぎるような愛情ではなかったけれど、私は間違いなく柴田を愛していると言える。
そして、柴田も私を愛してくれていると確信していた。
彼の眼差し、言葉、態度…それらは愛を感じるものだった。
第一、私のことを愛してないなら、私と結婚するわけがない。
彼なら、もっと条件の良い女性を娶ることだって出来るはずだ。
私は、これと言って特に秀でたところのない女だもの。
なのに、彼は私と結婚した。
それは、やはり私を愛しているからだと思う。
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