何度だってキミに、好きを届けたくて。
『そういえば、伊織さんの下の名前って”乃亜”だよね?』

『そうだけど……』

『女医さんと一緒の名前じゃん! すげーっ! じゃあ、伊織さんのこと、”乃亜”って呼んでもいいっ?』

『う、うん』

『俺のことも、”春佳”って呼んでくれていいからさ!』



春佳くんは純粋に本が好きだったから私に声をかけてくれただけ。

好きな本の中に出てくる女医さんと同じ名前だら、私のことを名前で呼んでくれただけ。

春佳くんにとっては、きっとそれだけなんだと思う。

だけど、私にとって春佳くんは、あの教室の雰囲気から救ってくれた存在。


あの日から、私が本を読んでいてもバカにしてくる人はいなくなった。

だから、人目を気にすることなく堂々と本を読める。

居心地の悪かった教室を、居心地の良い教室にしてくれた春佳くん。

人からしたら小さな出来事かもしれないけれど、私にとっては大きな出来事だったんだ。

春佳くんに恋する理由として充分だった。
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