お邪魔虫にハッピーエンドを
じわりと涙で視界が滲んで、目を擦る。
誰にも会いませんように、と心の中で願っていたときだった。
「わっ!?」
校舎裏を離れたところで、目の前に人が現れる。
避けようと寸前のところで体をひねったものの、その甲斐なく私は思いきり体当たりをしてしまった。
「っと……」
そのまま床に倒れ込む勢いだった私の肩を、誰かの手がそっと支えてくれた。
鼻をかすめた柔軟剤のような香り。
見上げた瞬間、私は「げっ……」と小さく声をあげていた。
「はは。受け止めたのにひっどい反応。お礼ぐらい言ったら? 逢沢さん」
「……蓮見くん」
栗色の髪がさらりと揺れ、前髪の隙間から淡いアーモンド色の瞳が私を見て細まる。
整った眉と、涼やかな目元。
通った鼻筋に形の良い唇。
蓮見 叶芽。
……俳優顔負けだと、学校の女子生徒からモテはやされている人の顔が間近に迫り、私は慌てて離れた。
「どうもありがとう、おかげで転ばなかった」
「いーえ」
まさかこんなところでばったり会うとは考えていなかった。
正直、一番に会いたくなった。
だって蓮見くんは――
「それ、もしかしてバレンタインのチョコ?」
「じゃないです」
「あはは、嘘ヘタかよ。その顔見ればなんとなく予想がつくし」
「……っ」
涙に濡れた目元を見られてしまいなにも言えなくなった。
見透かしたような笑顔を前に口ごもる。
「じゃあ、私はこれで」
あまり関わりたくなくて、蓮見くんの横を通り過ぎようとすれば、
「――やっと振られたんだ、桜葉に。きみの一生懸命な邪魔も虚しく。残念だったね」
さらりと言われた言葉に、私の足は止まる。
ギギギ……と、壊れた人形みたいに首だけを背後に向ければ、蓮見くんは何でもないような笑みを浮かべていた。