お邪魔虫にハッピーエンドを


『……景、一緒に映画をみよう? ずっと練習ばっかりだったから、最近の全然知らないでしょ』

『景、これ家で作ってきたんだよ。形は上手にできなかったけどね、味はいいと思うから。パウンドケーキ、一緒に食べよう』

『脚が痛むの? そうだよね、痛いよね。貰った痛み止めの薬、取ってくる?』


 私はとにかく、景のそばにいた。

 そうでもしないと、景は一人で抱え込むような気がしたから。

 そんな日が続いた、ある日。


『……景!? どうしたの!?』


 景の家のリビングで、お菓子を食べながら映画を観ていたときのこと。

 横を見ると、景は涙を流したまま静かに画面を見つめていた。


『まだ感動するところじゃないよ? というか、泣く要素ないコメディのはずなんだけど……』

 慌てて映画の詳細を確認する私。
 そもそも一緒に観ていたんだから、その映画が十秒に一回は笑えるシーンが入るものだと知っている。

『景、ほらこれ使って!』

 私が慌ててティッシュを渡すと、景はテレビ画面を見ながらぽつりと言った。

『ありがとう、杏子……。杏子がそばにいて、本当によかった』

 涙声に胸が締めつけられる。
 ――怪我をしてから今まで、ずっとそばにいてくれてありがとう。

 私の顔を見ながら感謝を伝えた景の顔には、久しぶりの笑みが浮かんでいて。

 好きな人の支えになれていた。
 こんな私でも励ますことができていたということに、心の底からほっとした。

 景が、元気になりますように。

 そればかりを思っていた。
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