契約違反ですが、旦那様?

 二階堂は大学を卒業後提携しているアメリカの大学院に進み、そこで経営学を学んだ。卒業後外資系のコンサルティング会社に就職する。だがその会社を5年で辞め、六菱商社(むつびし)へ転職。英語も堪能で外国人と堂々と意見を交換できるスキルは大変役立ち、転職して以降2、3年ごとに赴任先を変えて外国を転々としていた。

 今日だってプロジェクトがようやく終わり、赴任先のアルゼンチンから今朝日本に戻ってきたばかりだった。時差ボケと戦い、早く帰りたい一心を隠して渋々本社に顔を出せばもちろん捕まった。
 
 そして捕まったのが、社長副社長に次ぐ偉い人。「疲れてるんで無理です」と突っぱねるのは簡単だが、ここは日本で縦社会。商社なんて体育会系の集まりで特に歴史があるからこそ未だ体制がとても古い。
 
 外から見れば大手安心老舗企業ではあるが、内情は頭の硬いジジィの集まりである。ブラック企業もびっくりするほど仕事を投げられる。ただ、彼らには赴任中色々と助けてもらったり融通を効かせてくれたこともあるので逆らうことができない。どうせ次の赴任先でも彼らをうまく使わないといけないのだ。そういう未来への投資の意味でも二次会に《《ここまで》》ついてきたらしい。
 ちなみに本社は丸の内付近である。一次会を銀座で開催したあと、タクシーでわざわざ神奈川県の、それも横浜から外れたこんな場所まできた。
 話を聞いた樹莉は「タクシー代」と要らぬ心配をする。だがそんなもの彼らにとって端金だろう。結局は経理に領収書を提出して経費にするのだから。

 「長時間フライトおつかれさまでした」
 「あぁ、サンキュ」

 コチとグラスをぶつけて薄いウイスキーで乾杯する。この短い時間にお互いのことを簡単に紹介した。そして同じ大学だったことが発覚した。

 
< 13 / 69 >

この作品をシェア

pagetop