契約違反ですが、旦那様?

 独身の30オーバーの男女が集まれば必然的に話題は結婚のことになる。樹莉はわかっていながらもこの話題は苦手だった。

 「うーん。子どもは欲しいけど旦那は要らないのよね」

 こう言うとたいていドン引かれる。ただし、既婚者で子どももいる女性には大ウケだ。「本当に邪魔よ〜」なんて言う人もいる。少しだけ彼女の旦那に同情した。

 「シングル希望?まあ今の会社なら一人ぐらいなら育てていけるか」

 二階堂は樹莉の言葉を聞いても否定も肯定もしなかった。「へぇ」と珍しそうに眉を上げただけだ。

 樹莉の両親は樹莉が小学校に上がる前に離婚した。母はいまだに理由を教えてくれないが、父が浮気したんだと樹莉は思っている。母が夜こっそりと泣いている姿を何度も見たことがあった。それは樹莉の誕生日だったり母の誕生日だったり、樹莉の学校行事だったり家族が絡むことが多かった。

 当時はまだ今ほど離婚する家庭は多くなかった。しかも田舎だ。噂が回るのは早い。母は相当苦労したと思う。母をそんな目に合わせた父を樹莉は少なからず嫌っていた。高校生の時、一度だけ会ったけど何も思わなかった。ただただ「早く帰ってくれないかな」という思いだけだ。

 高校の時も大学の時も樹莉の友人たちは楽しそうに恋をしていた。連絡ひとつで一喜一憂し、言葉ひとつで泣いたり笑ったり大変忙しそうだった。
 付き合えて大喜びして服やらメイクやら頑張る姿は健気で可愛いけれど、なぜか樹莉の周りの友人は浮気される人が多い。
 その度に泣きじゃくって「もう死にたい」とか言い出す始末。酒が入ればタチが悪い。管を巻き延々と彼の想いを話すのだ。どれだけ自分が好きだったか、彼を想っていたのか。それなのに彼は他の女に浮気した。なんて酷いやつなんだろう。そして私はなんてかわいそうなの、と悲劇のヒロインもびっくりするぐらい悲しみに暮れる。授業は休むしバイトも行かない。そんな彼女たちを見て樹莉は表面的には心配しながらも内心では呆れ果てるしかない。「馬鹿馬鹿しい」とまで思っていたがもちろん口に出すことはなかった。
 
 結局男は裏切るのだ。樹莉の長くはないが短くもない人生でそれは教訓だった。男とひとまとめにするのは良くないよ、と以前友人に言われたが、言葉には決してできないが「浮気されたあなたに言われても」と思わんことはない。
 実際彼女も浮気という理由以外で破局したこともある。ただその度に樹莉は呼び出され、やけ酒に付き合わされた。とても迷惑極まりない。
 
 なのにだ。
 
 あれだけ泣いて酒を飲んで酔い潰れて二日酔いまでがセットの失恋事後を経験しても彼女たちはまた恋をする。そして繰り返す。
 すごく不思議で仕方なかった。懲りたはずなのにまた嬉しそうに報告が来る。そして泣きながら電話してきた。

 

 
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