契約違反ですが、旦那様?
心が乱されるのは仕事だけで十分だった。学生時代はバイトに学業。それ以上は頑張れないと思っていた。
そんな考えを持っていたこともあり恋愛はつい後回しにしていた。そのため樹莉はいまだに恋人がいたことがない。
めちゃくちゃ金持ちな彼氏がいる、とか。
年上のおっさんの愛人をしてる、とか。
実は色んな噂をされたこともあったけど根も葉もない嘘だ。
付き合ったこもなければ好きになった人もいない。なんとなく「いいな」と思っても今までずっと自分を、つまり仕事を優先してきた。
そんな樹莉を美奈子は心配している。
一方樹莉は、男に騙されて逃げられた美奈子がそれでも恋人を作ることが不思議だった。再婚する気はないらしい。
ただ、美奈子はモテた。もちろんビジネス上で男性心理を理解しているせいでもある。だが、一緒に食事をしたり、セックスする男はいた。
「…恋愛ってよくわからない。どうして友人じゃダメなの?って思う。気軽に食事をして、話をして、それだけでいいの、わたしは。それ以上は望まない」
「…ふーん。まあ色んな価値観はあるからな」
「二階堂さんはめちゃくちゃ恋愛慣れしてそう」
「俺?全然。ってかそれもよく言われるけど、全然慣れてないよ。基本自分のペース崩されるのが嫌だからその辺理解してくれる人じゃないと無理だし」
「理想が高い系か。じゃあ結婚願望もないの?」
「いや、それはある。ただ、俺はこういう仕事をしてるからそれを理解してくれる人がいい」
「現地妻は?」
「外国人は嫌だ。基本的に強いんだよ、あっちの女性」
「うわ。女は黙って言うこと聞いてろ、タイプ?」
「違うわ!普通に日本人がいいし、ってか食事に肉の塊が出てくるんだぜ?米なんかねえし。普通に安心する場所に帰ってきたいと思うじゃん。結婚相手なら」
すごくわがままだ。
樹莉は二階堂の要望を聞いてゲンナリした。
「つまり、海外を飛び回っている俺を許せ。仕事の邪魔をするなってこと?」
「そうだな。あと、貞操観念が高い人。|I despise women with loose legs《股の緩い女は軽蔑する》」
「そんな人どこにいるのよ」
「だからいまだに結婚できてないじゃん」
二階堂はハハハと笑ったあと「実はさ」と切り出した。
「昔付き合ってた女がそうだった。彼女とは互いの家に挨拶までしたんだ。どこのチャペルだ、ドレスはなんだってそこまで話は進んでた。彼女と住む新居まで買った。そしたらそこに男を連れ込んでてヤってたって話。ありえないだろ?」
二階堂が自虐的な笑みを浮かべる。樹莉はどう返せばいいかわからなかった。