契約違反ですが、旦那様?

 
 __________ピンポーン

 感動の再会に浸っていたところ、来客を知らせるチャイムが鳴った。ハッとした樹莉が「はーい!」と返事をする。

 「おはようございます!ひつじ保育園です!」
 「あ、せんせい!」

 希柚は昴の腕の中から抜け出すとまだパジャマのまま背伸びして玄関の扉を開けた。開いた隙間から小柄な女性が顔を覗かせる。希柚は「まま!せんせいきた!」と振り返った。

 「先生、すみません!希柚、着替えなきゃ!えーっと」
 「3分ほどなら待てます!」
 「すみません、ありがとうございます!希柚、3分!」
 「わかったー!」

 樹莉は慌てて希柚を連れて奥に行く。さっきまで子どもの熱い温もりに浸っていた昴は未だ膝をついたままだった。しかし、扉の隙間から覗いていた先生と目が合うなり、腰を上げる。

 「おはようございます。すみません、お待たせしてしまい」
 「あ、いえ。あの」
 「いつも希柚がお世話になっています。希柚の父です。昨夜チリから帰ってきたばかりで」
 「チリ…って、えーっと」

 先生は国は知ってるけどどこにあるかわからないという困った表情で固まってしまった。昴は凛々しい眉を下げて困ったように笑う。

 「南アメリカの国です。ブラジルの隣にあります」
 「…ぇえっ、そんな遠いところに。あの、えっと、おかえりなさい」
 
 昴はパチリと目を丸くしてすぐに苦笑した。

 「ありがとうございます。すみません、すぐに来ると思いますので」

 できればその言葉をまず樹莉から聞きたかったと思った昴の心など知らない当の本人は、カップラーメンよろしくばりに希柚の準備を手伝っていたのだった。

 
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