契約違反ですが、旦那様?
「明日、希柚の迎え、俺いこうか?」
今夜も希柚はよくしゃべり、力尽きるようにして眠りについた。ぷくぷくほっぺを撫でながら昴は娘の寝顔に浸る。そして、お風呂から出てきた樹莉に提案した。
「その方が早く迎えに行けるし、樹莉も真っ直ぐ帰ってこれるだろう?」
「仕事は?いつまで休みなの?」
髪を拭きながら不服そうな嫁に昴が笑う。
「今週いっぱいは休み。来週からオフィスに出るけど、引き継ぎがメインになるはずだからそれほど忙しくならないさ」
昴はドライヤーを持ってくるとコンセントを繋いでスイッチを入れた。樹莉を椅子に座らせると髪の毛を乾かし始める。
「温風で乾かしたあと、冷風で乾かせばサラサラになるんだぜ」
「よく知ってるわね」
「昔カットモデルした時に教えてもらった」
へぇと樹莉はどうでもよさげに返事をする。
「もうちょっと興味持ってくれてもいいだろ」
「なにに?」
何を言いたいか気づいてはいるもののツンと素知らぬ顔だ。
分かってる。樹莉だって希柚にとって父がいて母がいる家庭の方がいいことぐらい。でもそのことと感情は別物だった。
「俺に」
昴はドライヤーのスイッチを切るとブスくれた樹莉の頭を逸らして上から唇を塞いだ。突然のことに目を丸くする樹莉に容赦なく昴が懐柔を始める。
「んんっ、ん……っ」
両手でガッチリと両頬を掴まれて顔を逸らせない。樹莉は両手でなんとか昴の肩や胸を叩いているが、やがて力が入らずにだらんと腕が落ちた。
抵抗しなくなった樹莉を見て昴が畳み掛ける。
椅子から下ろし、床に胡座をかいて座った自分の脚の上に横抱きにして座らせた。
「ん、…っ、は、ぁ」
乾いたばかりの髪を寄せ首筋をあらわにする。
ボディソープの香がふわりと鼻腔を擽り吸い寄せられるように顔を埋めた。
濡れた唇を滑らせて耳を象る。軽く歯を立てれば小さく肩が跳ねた。パジャマ代わりのTシャツの裾から手を入れて地肌を撫でる。
潤んだ瞳が居心地悪そうに、困惑した様子で昴を見上げていた。
「忘れた?」
こうするんだよ、と昴は胸の前で硬く両手を握りしめていた樹莉の手をほどくと片方を自分首に回した。もう片方は恐る恐る樹里が回してくれて自然と頬が緩む。
「俺は忘れたことなんてなかった」
つい先ほどまで、娘に優しい眼差しを向けていた男とは思えないほど獰猛さをむき出しにしている。瞳の奥が熱で滾り、カラカラに渇望していた。
「触れたくて、何度も夢を見た」
昴の唇が樹莉の濡れた唇を閉ざす。簡単に郊外を撫であげて下腹部を疼かせた。腰を抱いた手が当時を思い出させるようにいやらしく撫でる。
「キスしたくて、抱きしめたくて」
そう言いながら息を荒くした樹莉をまた翻弄するように口付ける。獣のように食い尽くすようなキスだ。顎を開けているのが辛くてもう無理、と唇を離した。
「…めちゃくちゃにしてやりたい」
低く掠れた甘ったるい声が耳元で囁く。じくじくと熱くなる下腹部がキュンキュンと鳴き始めた。