恋の始まりはいつだって唐突に
心配そうな表情を浮かべる掛井さんを見て、クスリと笑みが零れる。
もう立派な大人だから大丈夫なのに。
「危ない」
その瞬間、大きな手が私の腕をつかんだ。
そのまま勢いよく引かれ、抱き寄せられるようになった体勢になる。
掛井さんの香水を微かに感じながら背後を振り返ると、酔っぱらったサラリーマンがふらふらと千鳥足で歩いていくのが見えた。
「すいません、ありがとうございます」
うん、とだけ呟いた彼は何故かその手を離そうとしない。
掴まれた腕がじんじんと熱い。
視線が重なる。
「……掛井さん?」
「悪い、やっぱここは無し」
「えっ?」
掛井さんはそれだけ呟くと、私の腕を引いて歩き出す。
20センチ以上ある身長差では当然歩幅も違う。私はもはや駆け足のようになりながら必死に掛井さんの後を着いていく。