恋の始まりはいつだって唐突に
数分歩いたところでその足が止まった。
ホテルだ。
いやらしい意味のではなくて、サラリーマンが使うようなビジネスホテル。一瞬心臓が打たれたような感覚になって、鼓動が早くなる。
そんな私を置いてけぼりに、そのまま正面玄関の自動ドアをくぐる。
「ちょっと待ってろ」
それだけ言い残すと、私を邪魔にならないところに立たせた掛井さんはロビーへと向かってしまった。
どうしよう。この状況にもう何も考えられずにいた。
だって、うっかりあの告白現場を見てしまって、その後はいつも通り二人で飲んで。ハプニングとは言えど、気が付けばホテル……。
「はい」
俯いていた顔を上げると、カードキーを渡された。もちろんこのホテルのものだろう。
「あの、掛井さん、」
「シングルしか空いてなかったけど、まぁ一人だし大丈夫だろ」
「えっ、あっ、一人……?」
「先払いしてあるから、寝て帰るだけな」
あとこれ朝食券貰ったから、と何事もないように言う掛井さんをポカンと見上げる。
きっと今の私、すごく間抜け面だ。