恋の始まりはいつだって唐突に
「あっ、」
一歩前に踏み出した右足が思うように体を支えきれず、バランスを崩す。
咄嗟に何かを掴もうとするも、思うように体が動かない。
どうしよう、なんてどこか諦めたことを考えながら、床に倒れ込む痛みを想像して目をギュッと瞑
った。
「あっぶね」
床に倒れこみそうになった私を受け止めた掛井さんが小さく呟いた。
渡そうとしていた袋を素早く床に置きそのまま両手を広げ私を受け止めたので、抱きしめられるような形になる。
体中が、また熱くなる。
「す、すみません、」
「大丈夫か」
大丈夫です、と返事をしたいのに声が出ない。
きちんと自分の足で立たないといけないのに体に力が入らず、どうすることも出来ない。
狭い玄関には、私の荒い呼吸だけが響いた。