恋の始まりはいつだって唐突に
そんなやりとりの後訪れた場所は、会社の最寄り駅の地下街にある小綺麗な居酒屋だった。
二人用の席に向かい合わせに座って、どうしてこんな展開に、なんてことをひっそりと思う。
そんな私の考えを見透かしたのか、掛井さんが小さく笑った。
「趣味悪いな」
「私だって見たくて見たわけじゃありません」
しまった。正直な感想がつい漏れてしまった。
その言葉に掛井さんはまた小さく笑い、持っていたジョッキを大きく傾けた。ゴクリとビールを飲みこむ度に上下する喉仏が色っぽくて、なんとなく目を逸らす。
「課長に頼まれた資料作ってたんだろ?終わった?」
「はい、なんとか。思ったより時間掛かっちゃって、ダメですね。もっと効率よく出来ないと」
「慣れだからな。結構量もあっただろ、他のメンバーにも振ればよかったのに」
頼んだ料理が続々と運ばれてくる。揚げ出し豆腐、からあげ、やきとりの盛り合わせと続いて、大好物のきゅうりの浅漬けがやってきた。
「金曜だしみんな予定あるかなぁとか思ったらなんか言い出せなくて」
「だからってお前だけ負担することもないだろ。俺も手貸してやれなくて悪かったけど」
「ありがとうございます。でもこうやって美味しいビールが飲めたので、結果オーライです」
ならいいけど、と納得したような、していないような声を呟いて、からあげを頬張る。