恋の始まりはいつだって唐突に
私もきゅうりを口に入れると絶妙な塩加減が口の中に広がった。うん、やっぱりここの浅漬けが一番だ。思わず頬が緩む。
掛井さんとこうして飲みにくるのは、実は今回が初めてではない。
元々私の教育担当者でもあった彼は今でも何かと気にかけてくれていて、たまにこうして飲みに行く関係だ。
何かと人気な彼だから、そんなことが周りに知れ渡ったりしたら何かと面倒だと思っていたところで見つけたのがこの居酒屋だった。
駅の地下の端にあるこじんまりとした居酒屋。オフィスビルが連なるこの街の多くのサラリーマンは地上にある飲み屋街に足を伸ばしがちなのか、ここは人気も少なく穴場なのだ。
「今回も断ったんですね」
「気まずそうな顔しておいて、自分で話を戻すんだな」
そりゃあ最初こそ気まずかったものの、よく考えてみれば、ああいった場面を目撃するのは初めてではないし。
ほどよくアルコールが体を巡ってきたところで、ええい、という思いで聞いたみた。
「今は彼女欲しくないとか」
「別にそういうわけでもないけど、あの人よく知らないし」
「でもよくお話してるの見ますよ」
「向こうが一方的に喋ってくるだけ」
「なんか余裕ですね」
モテる男は告白されなれているのか。あんな綺麗な人に告白されてもこの余裕だ。
私だったら。