観念して、俺のものになって
さっきまでの穏やかなくすぐったい気持ちとか、全部吹っ飛んでしまった。
私が怒り狂っているというのに、涼しげな顔をするこの人の思考が全く理解できそうにない。
少しでもいい人かもって思ったのが間違いだった!
私を好きって言ったのも、上手く利用するために吐いた真っ赤な嘘に違いない!!
私は鞄に入れた財布を取り出し、そこに入れてあった有り金と彼の名刺を鷲掴んでヤツの目の前に突き出した。
「……これ返します!!それから今日の分のお金!全然足りないかもしれないけど!」
紬さんは……いや、ヤツは私の行動に目を丸くする。
「あれはお礼だって言ったはずだよ。
そのことについてはきみだって納得していたじゃないか」
「その時は結婚の話なんてしてなかったじゃないですか!!」
「分からないな、すでに終わった話の報告を先にするのも後にするのも変わらないでしょう?」
ああ、なんでこの人がモテるのか理解に苦しむ。
「あのね、そういうところです!!私の意思はどうなるんですか!?
とにかく、もう顔も見たくないです!ドリンク無料とか、そういうのも要りませんから!さようなら!!」
私はヤツの胸に、それをまとめて押し付け、振り返って早足で歩き出した。
もしかしたら自分の行動を少しは反省し、
彼が追いかけてくれるんじゃないかと期待して、背後をちらりと振り返る。
でも、小さくなっていく紬さんはコンビニの前で私に向かってひらひらと手を振っていた。
振り返った私を見た瞬間嬉しそうに笑って、口元に掌を当てて声をかけてくる。
「それじゃあ、また。
明日も僕は店にいるから!」
一瞬冷えた頭がカッと熱くなった。
「ほんっと信じられないっ、最低!!」
いい人だって、ちょっとアリかもって思ったのに!
私はヤツに向かって再び叫んで、暗闇の中自宅に向かってどうしようもない怒りを持て余しながら走り出した。