観念して、俺のものになって
ドクンッ
「……っ!!」
なぜか私の激しく早鐘を打ちだした心臓を咄嗟に押さえる。
なっ、なんなの……どうして私に気づいただけで嬉しそうに笑うのよ!
貴方がただの、傍若無人で嫌味ったらしいナルシストだったら大っ嫌いになれるのに!
それなのに、なんでそんな優しい瞳でこっちを見るの。
人目を憚らず、紬さんに向かって叫び出しそうになって、なんとか言葉を呑みこむ。
彼はそんな私を知ってか知らずか、一切手は止めないままじっと私を見つめ続けていた。
ミルクと砂糖たっぷりのカフェオレみたいな、甘いカオで見られたら……勘違いしちゃうじゃない。ズルいよ!
紬さんから顔を背けると、私はカランとベルの音を鳴らして扉を開けた。
「あ、待って……」
「店長、オーダー入りました!」
彼が私の方へ歩み寄ろうとしたら、新しい注文が入ってすぐにスタッフの人に呼び止められる。
「チッ」という短い舌打ちが背後から聞こえてきたけど、私は構わず店を後にした。