観念して、俺のものになって


ちがうちがう!

アイツは私の気持ちを無視して、
勝手に婚姻届を出し自分のストーカー対策のために利用した、最低な男なんだ!!


そこまで考えた私は、
また思考の沼にはまっていく。


……どうして私は紬さんのあの言葉に、
あんなにガッカリしたんだろう。

勝手に婚姻届を出したから?

それは当然だけど、紬さんは自分勝手な腹黒二重人格野郎だって知っていたはずじゃない。

本当はいい人なんじゃないか、って思っていたから?それとも……


ズキズキと痛む胸を押さえて立ち尽くしていると、後ろから車が近づいてきたらしく、ヘッドライトで照らされた私の影がすうっと伸びた。


この道は狭く、真ん中を歩いているとクラクションを鳴らされてしまうこともあるから、私は急いで道の端に移動する。


車が来る方を確認しようと振り向くと、15メートル程離れた十字路に、さっと誰かが隠れたのが見えた。


「…………っ!!」


車が向こうからゆっくりと走ってくる。

追いつかれないよう、道の真ん中を全力で走り出した。車は走り出した私に向かってクラクションを鳴らす。

自分へのクラクションに気が付いていないフリをしながら走り、目の前に現れた十字路に設置されたオレンジ色のカーブミラーを見上げた。

先ほど隠れた人物は、私が走りはじめたことに気が付いたらしい。


クラクションを鳴らした車の後ろにいたのは……紬さんに出禁にされた、元常連客の女性だった。


私は走るスピードを上げ、車の目の前を横切って暗い路地へと駆け込む。

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