観念して、俺のものになって
この辺は似たような住宅街が続いていて、住み慣れている人でもたまに迷ってしまう。
街灯のないマンションとマンションの間を右へ、コインランドリーと駐車場の間を突っ切って閉店した角のタバコ屋を左へ、見えてきた人気のない公園の中をショートカットしてその先の丁字路をまた右へ……ひたすら全速力で走り続けた。
汗だくになって、はじめて足を止めた。
「はあっ、はあっ、はあ……!!」
普段運動しないから息切れがすごい。
知らない家のコンクリートブロック塀にもたれかかるようにして身を隠し、ぜえぜえと呼吸音を立てる自分の唇を掌で塞ぐ。
心臓はバクバクと激しく収縮し、
唇を塞ぐ私の掌は震えていた。
息が整うまでしばらく待ってから、そろそろと壁に背をつけたまま路地の方へと顔を出す。
じっと様子を伺ったけど、
あの女性の姿はどこにも見えない。
どうやらうまく撒くことができたみたいだ。
とりあえず一安心だけど、
まだ油断は出来ない。
私は壁にもたれかかったまま、
へなへなと座り込む。
……どうしよう!
まさか紬さんのストーカーがつけてきていたなんて!!
もしかして、あの女性は私の家をもう特定しているのだろうか。
撒いたと思って、すぐに家に帰るのは危険かもしれない。
ふつふつと湧き上がってくる不安に心臓をまた鳴らしながら、このままじっとしているわけにもいかない、と竦みそうになる足を押さえ、私はゆっくりと立ち上がった。