観念して、俺のものになって
言える訳がないよ。
カフェの店長といつの間にか結婚していて、今はその人のストーカーに悩まされているなんて……
苦笑いを返した私に、市東さんは困ったように眉を寄せ、首の後ろを掻いた。
「困ると思って今まで言わなかったけどさ……俺は芦屋が可愛いって言うの、本気だから」
「えっ?」
市東さんの思ってもみなかった言葉に、
目をぱちくりさせて彼を見つめた。
少し照れながらも、真剣な表情をした彼の真っ直ぐな視線が私を捉える。
「芦屋は見た目がタイプだし、
気が合うなって前から思ってたんだ。
……その、こんなとこで言うのもあれなんだけど、俺は芦屋のこと好きだから」
ええっ、市東さんが私を……好き!?
驚きのあまり、彼を見上げたまま言葉を失った。
イケメンなのは勿論のこと、
仕事もめちゃくちゃ出来るし、
男女関係なく好かれる人柄の市東さん。
この間営業部の女子が独断で考えた、彼氏にしたい社員ランキングで1位に選ばれていた。
そんな彼が私のことを良いって思ってくれていたとは……!
短期間で2人に告白されるとか私、
ついにモテ期が来ちゃった!?
いや、紬さんのはノーカンかもしれないけど。
嬉しさ半分、戸惑い半分って感じで呆然とした私の顔を見て、市東さんは焦ったように視線をうろうろさせながら言葉を重ねる。
「だから、もしよかったら今度飯でも行かないか?会社の飲み会とか、大勢でしか会ったことないから2人きりで話がしたい」
「2人で……?」
咄嗟に頭の中に浮かんだのは、格子窓のこちら側で一緒に月を見ながら口元の黒子を僅かに持ち上げた、紬さんだった。
「ええっと……すみません。考えさせてください」
少し俯いてそう言うと、彼はわざとらしく「あははっ」と笑い声を上げる。
「そ、そうだよな、芦屋だっていろいろあるよな!返事はいつでもいいから!」
市東さんは複合機から出てきたFAXを鷲掴み、「じゃあ!」と声をかけて自分のデスクへと歩きだした。
遠ざかっていく市東さんは耳まで赤くしていて、それを見た私は胸の前で掌を握りしめる。