観念して、俺のものになって
タイル張りのビルの階段を降りて、
いつものように鉄と硝子でできた店の扉を開けようと手をかけた。
扉の透明な硝子越しに見えたのは、誰も並んでいないレジに立っている女性店員さんと、その隣で話をしているらしい紬さん。
あ、今日はホナミさんいるのか。
珍しいな。
ホナミさんはパートの主婦の方で、大体いつも平日のシフトに入って夕方までには帰るから、私はあんまり会ったことない。
何回かだけ話したことあるけど、3人のお子さんを持つママとは思えない程美人でとても優しい人だ。
穏やかで癒しオーラがある印象かな。
まぁ、それはともかく。
……今日こそ、紬さんにビシッと言ってやるんだから!!
さっき電車の中で考えたシミュレーション通りにしてみせると意気込んで、扉にかけた手にぐっと力を込めたちょうどその時。
ホナミさんが何かをさんに向かって言い、それに紬さんは顔をしかめる。
きっと舌打ちしたのかもしれない。
ホナミさんはそんな紬さんを見て、口元に手を当てて上品に笑った。
なんだか、楽しそう。
私は開きかけていた扉から思わず手を離し、そのまま2、3歩後退あとずさる。
あの仲良さそうな光景を見て嫌だ、見たくないと思ってしまっている自分がいた。