観念して、俺のものになって
「……っ!!や、やめてください!」
今から何をされるんだろう。
怪我だけで済むならマシな方かもしれない。
尋常じゃない程の恐怖から、全く動くことができなくなった私は女に腕を掴まれたままぎゅっと瞼を閉じる。
最悪な事態を予想した、まさにその時だった。
私たちの背後から、
聞き慣れた低い声がかけられたのは。
「……いい加減にするのはあなたの方ですよ。株式会社FLASH、社長の椚田幸世さん」
ビルとビルの間に挟まれた道から見える東の空には、冴え冴えと輝く月が出ていた。
ゆっくりとこちらへ歩いてくる男性の姿を確認したストーカー女はさっきとは打ってかわり、顔色を真っ青にして私の手を離す。
私は地べたに座り込んだまま、目の前の女とこちらに近づく紬さんを見上げる。
「俺は以前あなたに言いましたよね。
これ以上詮索するな、と」
事務的な言葉で話す彼の声は、ものすごく冷たい。
女性の肩越しに見た紬さんは眉一つ動かさずこちらを見下ろしていた。
その表情に焦ったのか、彼女はさっと立ち上がって言い訳しようと紬さんに近づく。
「……つ、紬?これは、その……違うの!」
「馴れ馴れしく俺の名前を呼ばないでくれますか?」