観念して、俺のものになって
紬さんは眉を寄せ、吐き捨てるように女性の言葉を遮った。
彼女は顔に恐怖の色を滲ませていたけど、すぐに歪んだ笑みを浮かべて紬さんに向かって猫撫で声で話しかける。
「紬、あなた間違ってるわ。
あなたにはこんな平凡な女は似合わない」
彼は再び女性の言葉を遮るように、「チッ」と舌打ちした。
「俺の名前を呼ぶな、と言っているのが理解できないのか?」
紬さんは女性のそばにゆっくりと歩み寄る。
彼の歩き方は、いつもお店でしているような姿勢の良いものではなく、両手をポケットに突っ込んだまま背を丸め、前傾姿勢になった……今にも飛びかかってきそうな肉食獣のようで。
恐らく身長は180センチ以上あるから、威圧感がすごい。
真っ黒な瞳を冷たく光らせ、紬さんはその高みから女性を鋭く睨みつけた。
ゾクッ
こ、怖い……ここまで怒っている所は初めて見るよ。
怒りの対象は私じゃないのに、
こっちまで背筋が震える。
「ち、ちがう……」
「黙れ。
誰が僕に話しかけていいって言った?」
お店にいる時とかけ離れた、紬さんの乱暴な口調と雰囲気に呑まれたのか、女性は口をはくはくと無意味に動かした。
紬さんは黙ってしまった女に向かって、唇の両端を持ち上げて微笑みかける。
でも、その瞳は嗜虐的な光を帯びていた。
「椚田幸世、41歳。今の肩書きはファッション通販サイト『FLASH』の社長。
出身はK県、現在の住まいはM市H町1丁目の38、母親と2人暮らし。そうそう、忘れちゃいけなかったね、愛犬が1匹。毎日出かける時間は6時45分、会社に到着するのは……」
紬さんは薄い唇から、スラスラと女の情報をその場に垂れ流していく。
「や、やめ……」