観念して、俺のものになって
よほど、紬さんが怖いんだろう。
呆然としたまま、掠れ声で呟くストーカーの女性はガタガタと体を震わせている。
彼女の声に反応して、舌打ちが再び落ちた。
「いま、話しているのは俺だから。
口を開いて良いって許可は出してないよ。
日本語が理解できない?」
紬さんの威圧に黙り込んだ女性を眺め下ろし、嘲笑う彼を見て
『あ、この人は絶対怒らせてはいけないな』
って悟った。
今まで散々付け回していたんだから、当然の報いだと思いつつほんの少しだけ女性に同情してしまう。
そして、唇を柔らかく持ち上げて彼女に向かって囁く。
「椚田さん、俺は優しいからあなたにも分かるように話してあげるね?」
突然微笑み出した紬さんに、
女性は強張らせた表情を緩めた。
その顔を見つめた彼はふっと真顔になり、
いつもより声を低くしこう告げる。
「お前にストーキングされた証拠は全て持っている。
これを警察に持っていけば、お前は社会的に破滅する。お前を生かすも殺すも、僕の気持ちひとつだ」
豹変した彼を見た女性は絶望的な顔をした。
詰んだ、ってのはまさにこういうことだと思う。
1度安心させておいて、更にどん底に突き落とすなんて……恐ろしい人だよ。
紬さんは言葉の銃弾を叩き込む。
「社会的な死か、それとも黙って今すぐここから立ち去り、怯えながらいつもと同じ生活を送るかーーーどちらか選んでもらえますか?」
物腰穏やかな言葉は、
この人なりの最終通告なのかもしれない。
彼の瞳からは、答えによって為すべきことをする、という覚悟だけが見て取れた。
「つ……」
女性は何かを言おうと口を開けたけど、有無を言わせない雰囲気を察して口を閉じる。
もう話すのを諦めた彼女は黙り込んで俯き、紬さんの隣をゆっくりと通り過ぎて、大通りへと消えていった。