観念して、俺のものになって
「あの女……!」
紬さんは歯を食いしばって大通りの方へと体を捻り、腰を浮かしかけた。
今にも走り出していきそうな彼に向かって、私はとっさに声を上げる。
「まっ、待って!
ひとりにしないで!!」
さっきまで命の危険を感じるほど緊張していたから、糸がぷつんと切れた今は泣きそうなのを必死に我慢してるんだ。
こんな状態の私を置いて行かないで。
紬さんが私を振り返り、
ぐっと眉を引き絞る。
そのまま私の側へと座り込んで、たくましい腕を広げ、壊れ物を扱うかのようにそっと私を抱きしめた。
焙煎された豆の深く甘い香りと、仄かにほろ苦い煙草の匂いが鼻へ抜ける。
「……怖い思いさせてごめん。
こうなる自体は予想していたのに、
もっと早く動くべきだった。
もう大丈夫だよ」
私を抱きしめる力は最初は優しかったけど、段々と強くなって……それが紬さんの後悔を現しているようだった。
”大丈夫だよ”
そう、その言葉が欲しかったの。
安心しきった瞬間に、とうとう涙が瞼から溢れ出した。
「ううっ………ひっく」
私は紬さんの肩に顔を埋め、漏れそうになる嗚咽を殺す。
そうしていなければ、子供のように大声で泣き喚いてしまいそうで。