観念して、俺のものになって
「んぐ……ひっ……!」
彼は私を抱きしめたまま、優しく頭を撫で、背中をさすりながら耳元へ囁くように繰り返した。
「もう大丈夫、大丈夫だよ……こわかったね、ごめんね」
胸から溢れでる感情を包んで掬いあげるような言葉と、優しい抱擁が弱った心に染み込んでいく。
私は彼の肩口に顔を押し付けるようにして、何度も頷いた。
……あっ、紬さんの高そうなシャツが私の涙とファンデーションで白っぽく汚れちゃった。
それに気づいて、慌てて彼の肩から顔を離そうとするけれど、紬さんはふっと吐息だけで笑って再び私の頭を撫で、自分の肩口に優しく押し付ける。
「まひるちゃんは本当に馬鹿だね。
そんなもの気にしなくて良いのに」
「で、でも……!」
「もう、強情だなあ。おいで、いったん店に戻って怪我の手当てをしてから一緒に帰ろう」
紬さんは私の鞄を自らの腕にかけ、飛んで行った靴を拾い上げて私に履かせる。
彼の言葉に頷いて立ち上がろうとしたその時、紬さんは突然私の膝裏と腰をぐっと掴んで私をそのまま抱き上げた。
「ひええっ!?」
これ、お姫様抱っこ!?
か、顔が近い……!
少女漫画やドラマで憧れたシチュエーションをされた私は、一旦痛みを忘れてドキドキと心拍数上がっていく。
急に高くなった視界に、慌てて紬さんの首根っこにしがみついた。
周りに誰もいなくて良かった……もし人に見られてたら、恥ずかしさでどうにかなりそう。
色気も何もない私の悲鳴に、紬さんはクスッと笑った。
「ほんと、きみは見てて飽きないね」
いや、そもそもこんな怖い思いをしたのは誰のせいだと思ってるんですか。