観念して、俺のものになって


予想外の言葉に呆気にとられて、彼を見つめ返した。

5年前って……まさか、紬さんはあの時飛び降りようとしていた男性なの?

いや、でも確かあの人は眼鏡を掛けて、ボサボサの髪で少し小太りだった気がする。

記憶の中の印象と随分違うんだけど……


気になって仕方ないから、
直接訊いてみようと口を開く。


「あ、あの……っ!!?」


紬さんは瞳をそっと伏せ、瞼を下ろしながら私に整った顔を近づける。



何が起こっているのか理解出来ずに硬直している間に、唇に柔らかな感触が触れた。


苦くて甘い、わずかな煙草の香りを纏ったキス。

「……ど、うして……?」


ぽかんと口を開けて放心状態の私を抱き上げたまま、その人は少年のように顔をくしゃっとさせ笑った。


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