観念して、俺のものになって
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呆然としている間に素早くカフェのバックヤードへと連れて行かれた私は、ハラハラしながら私たちの帰りを待っていたホナミさんの悲鳴で出迎えられた。
「まあ、大変!すぐに手当しなくちゃ!」
怪我することを予測していたのか、
既に救急箱が用意されている。
ホナミさんは水で洗い流した掌の傷を消毒し、大きなパッド式の絆創膏を貼りつけてくれた。
傷口が染みてちょっと痛い。
「怖かったよね、痛かったよね……」
悲しそうに眉を下げ、よしよしと私の頭を撫でる彼女に対し、ぎこちなく笑うことしか出来なかった。
「まったくもう!顔に傷はつかなかったからまだマシだけど、店長がついていながら結婚してすぐの奥さんにこんな怪我させるなんて駄目じゃないの!」
ホナミさんの言葉に思わず目を見開いた。
……私たちが結婚したことを知っているんだ?
そんな私に気づかず、鼻息を荒くして怒っているホナミさんは紬さんをキッと睨みつける。
紬さんはカウンターの椅子に腰掛け、珍しく肩を落としていた。
「……今回のことは、あの女が危険人物だって前から分かっていたはずなのに、対策しなかった俺の落ち度だ。
コーヒー1杯だけで何時間も居座るし、ずっと俺を舐め回すように見てきて気味が悪かった。俺が他の女性客と話してたら、浮気だの何だの喚いて絡んでくるのも意味が分からなくて……とうとう耐えられなくなって出禁にしたんだ」
えっ、何それやば過ぎ!
怖いを通り越して、もはや異常だよ。
もし私が異性に同じことをされたらと思うと……背筋がぶるっと震える。
「そういう人は出禁にしただけじゃ、簡単に諦めないわよ」
「ああ、実際その通りだったよ。今までされてきたストーカー行為は証拠を残してあるから、これと被害届を警察に出すつもりでいるよ」
「ええ、是非そうしてください。むしろ遅いくらいよ。まひるちゃんの心と体のケア、しっかりしてあげて下さいね」
ホナミさんに釘を刺された紬さんは、力強く頷いた。