観念して、俺のものになって
治療を施してもらったあと、紬さんは仕事を早退し、私と一緒に店を後にした。
先ほど東の空に見えていた月は次第に移動を始めていて、あの日見た月よりも幾分か膨らみ、明るくなった光が私たちが行く道をぼんやりと照らしている。
街灯のほかに見えるものは、飲食店の看板や集合マンションの共用廊下に灯る電灯、そして自動販売機の明かり。
2人きりで静かな道をいつものコンビニに向かって並んで歩く。
紬さんは私の指先に、長い指をそっと絡ませた。
いつものように手を握りしめはしない。
もしかしたら彼なりに、手の傷を労っているのかもしれない。
暖かくて柔らかい感触と苦い煙草の香りを思い出し、私は顔を赤らめて俯く。
「まひるちゃん」
「……んんっ!」
紬さんに名前を呼ばれたかと思うと、突然彼は横から大きな掌で私の頬を包み込んで、自分の方へ顔を向かせる。
驚く暇もなく、そのまま彼に再び口付けられた。