観念して、俺のものになって


紬の唇はちゃんと手入れされていて、温かかった。

私は戸惑いながらも瞼を閉じる。


珈琲の香りと煙草の香りがする唇は私の唇を甘く苛み、何回か優しく押し付けてくる。


ーーードクン、ドクンッ


触れ合うだけのキスがすごく甘く、熱を感じて。

何もかも想像の斜め上をいく紬さんの行動に振り回され、心臓は痛いほど脈打っていた。

はぁ、このまま蕩けてしまいそう……


ちゅっ、と唇を吸われた所で、ぼーっとしてた意識が戻り思わず腕で彼を押しやる。


「い、いきなりなにするんですかっ!!」


顔を真っ赤に染めて分かりやすく狼狽える私に対し、紬さんは悪戯が成功した子供のように吹き出しくすくすと笑う。


「好きな子にキスしたいって思うのは当然だろう?」


彼は私の指先に、また指を絡ませ私たちの目の前へと持ち上げた。


そして、紬さんは少し屈むとその瞳を優しく細めながら、私の指先へそっと唇を寄せる。


「ねえ、一緒にうちに帰ろうか」


彼の吐息が、その柔らかな唇の先端が私の指先を擽る感触に息を呑む。


「ど、どこに……?」


紬さんが吐息だけで笑い、私の指先へ口付けを落としてからわずかに離した。


「一緒に帰ろう、俺の家に」


彼の真意を推し量った私は固まってしまった。

紬さんの家に行くってことはつまり……ひゃあああ!!

頭の中で想像して、勝手に1人で照れる。



「さっき、きみがあの女に傷つけられるかもしれないって思った時、どうして俺はきみの側にいてあげなかったんだろうって後悔したんだ。それにきみは、俺の妻だから」


少年のようにはにかんだ、紬さんの言葉に私の心はぐらぐら揺れた。

どうしよう、確かに私たちは結婚しているから家に行くこと自体は問題ないだろうけど……心の準備ができてないよ!


「私たちは知り合ったばっかりなので、また今度にしませんか……!?」

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