観念して、俺のものになって
なので、私は仕方なく寝室へと足を踏み入れた。
ベッドの左右を照らすのは天井から垂れ下がった、ボール型のガラスシェードに覆われたペンダントライト。
透明なシェードは珈琲色なのが、
すごく紬さんらしいな。
ライトの中の電球はフィラメントが幾重にも折り重なった、クラシックなカーボン電球だった。
それが照らし出すダークブラウンのシーツがかかったベッドへ、ぎくしゃくしながら近づいた。
「……あっ!」
そうして、初めて気づく。
ベッドにはヘッドボードが付いており、そこには『仁科隆聖』先生の本が何冊も並べられていることに。
「わぁ、『常闇の街』もある!!」
もちろん私の部屋にもあるんだけど、紬さんは改装前と後の書籍、カバーデザインが変わった物まで持っているみたい。
これは相当なファンだ。
1冊手に取ろうとしてハッとする。
紬さんの本なのに、勝手に読んでいいのかな……
一瞬そう考えたけれど、同時に先ほどの彼の言葉を思い出した。
『部屋にあるものは好きに使ってくれて構わない』
……あれはきっと、本のことを指していたのだろう。
紬さんの分かりづらい気遣いに唇を緩ませ、ベッドに腰掛けた。
棚から『常闇の街』を取り出し、そのついでにベッドヘッドに読書用の照明が付いているのにも気がつく。
部屋の照明に合わせた優しいオレンジ色のライトをつけ、手に取った本の表紙を開いた。
鰻屋でふたり、格子窓の隙間から上弦の月を見上げるあの場面をみつける。